徐々に動き出す世界
ゲームの世界がすべてに代わって、早くも2カ月がたった。
解決策は、残念ながらなにもでなかった。それどころかこのことを知っているはずの外部からもなにも連絡すら入ることはないようだ。
あの時、残された建物にあった唯一の情報、ジ・アームズに接続していた2万2500人が行方不明で問題視されているという現実での情報だった。
このゲームからのログアウトが不可能だとようやく理解したプレイヤーたちは、虚無感に襲われた。その場に倒れ込むものまででたものだ。
しかし人間慣れるものだ。2か月たった現在では、人により遅い早いあれど皆が、少しづつ行動にでていった。
都市で生活を始める者、ギルドを結成して協力態勢を取ろうとする者、己の力を磨くために街の外にでて遺跡攻略を進める者、ゲームを満喫する者、それぞれが何かしらの行動にでようとしていた。
その中でも特に注目になった者たちがいた。まず一番最初に行動を起こした、ギルド[自由]だ。彼らは、古参プレイヤーを良く思わない始めて1年未満のプレイヤーの集団だった。
各プレイヤーは、名前どおり自由に行動することを基本としていた。
古参プレイヤーに対抗するために数を集めて西に位置する一つの都市を占領してギルドの本拠地とした。彼らは、総勢2000人とジ・アームズ最大のギルドとなった。
次に行動したのが、[守護同盟]と言われる7つの有力ギルドを中心にした同盟だった。彼らは、ゲーム内では秩序を守るため指導者が必要だと1000人程度集まった。
しかし、彼らは、守る代わりに、金銭やアイテムの貢物を強要した。
そのころには、物語を終わらせることができれば、現実に帰ることができるのではないかと言う噂が流れていて、攻略を目指すプレイヤーも多くでていた。
そして、意外にも多いのがゲームを現実と認めて生活を満喫する者たちだった。その中で人気なのが[トレジャーハンター]と言われる14つの古代遺跡や無数の地下遺跡や洞窟から高級な物や貴重なレアアイテムを手に入れてくる者たちだった。
彼らは、ソロから6人程度の少人数を基本として強力な装備の生産に必要なアイテムやジ・アームズ内での娯楽であり人間の欲求でもある食事には、美味な物ほど高価な食材を必要としたそのために高級食材を街で売ることを目標にした。
もちろん、クライも街で救助を待つなんてことは、考えられず、行動にでていた。
当時すぐに、友人たちにギルドに誘われたが、それは、断っていた。そして、クライがとった行動が、少なからず存在した[傭兵]と言われるプレイヤーの一部がとった行動だった。
彼らは、遺跡の探索や都市間の移動時の護衛、そして縄張り争いの兵士として雇われることを生業としていた。
とある日、都市同士の貿易を生業とした大商人のプレイヤーの馬車とそれを護衛する護衛集団が遺跡で発見した大掛かりな荷物を運ぶための大移動をしていた。
基本個人アイテムは、自分のシステムに管理されたアイテムBOXに入れて運ぶのが普通だが、最大重量というものが存在し、だいたい人により違いはあれど、100~450Pと言われる重量単位が普通だ。
しかし14遺跡などで手に入るオーパーツと言われる古代産物は、小さいもので700Pと個人の積載重量を越えるためこうして、馬車移動を主流としていた。
古代産物は、高価で貴重品でまた、強力な装備を造る材料として知られる。そのために盗賊行為に走るプレイヤーに狙われる恐れが多かった。それに加えて、厄介なことにオーパーツを魔物をひきつける性質があり、こうして護衛を雇うのが当たり前になっていった。
「なんてこった! フリーダムの連中だ!」
都市間を移動する馬車の護衛として、雇われていた前方を歩く視野を拡大するスキル[アカジャ]を使用しているプレイヤーが味方に知らせるために叫んだ。
[自由]は結成当時は、古参プレイヤーに対抗するための組織として、新人を集めて遺跡探索などをして貴重品を集めていたが、遺跡の中でも14遺跡は難度が高く、始めて1年未満のプレイヤーたちでは攻略が不可能で、このままでは良いものは、古参プレイヤーにとられると思った幹部たちが、遺跡に潜るより楽に良いものが手に入る方法として、他のプレイヤーに圧倒的な数による襲撃を提案した。
「ば、馬車を守ってくれ! 頼む!」
大商人のババラットは、動揺しながらも護衛たちに頼んだ。
「か、数が多すぎる! 無理だよ!」
「なに言ってんの! ワタル!こっちは、金銭貰ってるんだから、頑張る!」
フリーダムは襲撃する時、100人ほどの圧倒的な数で襲撃を駆けてくることで脅威となっていた。
「時間を稼ぐだけでいい、馬車さえ逃がせばいい!」
馬車の横にいた護衛のリーダーが敵の数にうろたえる護衛に対して冷静に命令をとばした。
「アッガイさん! あの細道まで行きましょう! そうすれば敵の数だのみの一斉攻撃は、防げます」
クライは、先に見える都市につながる道を指差しながら護衛リーダーで古参プレイヤーのアッガイに伝えた。
「よし、全員あの細道を目指す! 遅れるなよ!」
「了解」「よし」「はい」「しゃあ」
総勢14人の大掛かりな護衛団体は、逃走を開始した。
城塞砦[クロスエディオ]は、周囲を高い2重の壁で囲まれた砦だ。大きさはさほど大きくはないが、その高くそり立つ壁は、威圧感がある。
ここは、守護同盟が拠点としている砦の中で最西端に位置する。壁付近には警備のNPCを配備している。
NPCとは、ノンプレイヤーキャラでプレイヤーと違いAIである。
砦の所有ギルドが雇うことができ、維持費の金額さえ払うことができれば、かなりの数を配置することができる。
プレイヤーに比べて、朝晩問わず警備にあたり、睡眠を必要としないのが長所である。
しかし、今回は警備をNPCだけに任せていたのがあだとなった。
やはり、プレイヤーに比べ能力が劣り、巡回コースも一定であり、単調と言える。
巡回のコースさえ呼んでしまえば、見つからないように行動することも、待ち伏せで倒してしまうことも
簡単だろう。
「よし、こっちは、大丈夫だ。」
「わかったわ、進みましょう」
「うむ」
黒いロープ姿の3人が、巡回中の警備NPCにばれないように、砦の中へ侵入した。
3人は、砦の制御室へ足を進める。制御室を占領したものを所有者とするシステムにより、あらゆる砦や城は、制御室を最重要拠点として、守りを固めるものだ。
もちろん、この砦にも守備NPCだけでなく、プレイヤーと強力なガーディアンが配置されている。
「突撃する! 遅れるなよ 二人とも」
「わかってるわ」
「御意」
三人は、潜入用に用意した黒いロープを装備解除して、制御室へ突撃を開始した。
彼らが、装備していたのは中堅や普通の古参プレイヤーでは、手にすることができない、鎧に輝く刺繍が施されたオーパーツから造られた特A級の防具だ。
「二人とも、雑魚を頼む! デカブツは、俺にまかせろ!」
そう言って、大剣を背に担いだ金髪の男が、ガーディアン目指して走り出す。
「クラトス! 先走り過ぎよ!」
そう言いながらも、その後ろに黒髪の少女が続く。彼女は、細身の剣を腰から抜き、高速の剣術スキルを放つ。
「スパイラル・エッジ」
青白い光のエフェクトを輝かせながら、無数の真空刃が、クラトスに向かおうとした守備NPCたちをとらえる。
NPCは、ライフを一メモリも残すこと無く、削られ淡い光に包まれその場から退場した。
「強いぞ! あの女を先にやる!」
残されたプレイヤー3人が一斉に少女に踏みよる。
「させぬ!」
武士の格好をした体格の良い男が守護同盟のプレイヤーに向かって、腰の刀を抜きながら抜刀スキル[一閃]を発動した。
「失せよ!」
腰から抜き放たれた横薙ぎの瞬速の一撃は、3人をとらえて、消し飛ばす。
「ば、ばかな・・・」 「一撃だと・・・」 「く、くそ」
三人は、ポリゴンを散らして、白い光となり、はるか東に飛び去った。
きっと、守護同盟の拠点のどこかで、復活を果たして、悔しさに覆われるだろう。
「助かったわ、貴光」
「気にするな、それより、奴を援護せねば」
二人は、カーディアンと一対一で闘っていたクラトスをほうを向いた。
「は! 問題ねえよ もう終わる!」
カーディアンが、腕を振るう、その一撃は空気を切り裂き、[グォ]という音を立ててクラトスをのみ込もうとする。
クラトスは、その攻撃を避けようとはせず、真っ向から勝負を挑んだ。
大振りで振るわれた大剣とガーディアンの腕が音を立てて、火花を散らす。
クラトスは、反動で後ろに下がりながら大技のために入った。
「鳳凰剣!!」
大剣から放出された炎の鳥は、一直線にカーディアン目指して突撃した。
視界を覆い隠す、炎の演出は、カーディアンを消し去り、消えてなくなった。
それから、ほどなくして、砦の所有者は、守護同盟から、彼らギルド「暁の剣聖」の物となった。
11月26日 誤字を修正、致しましたで候。
11月27日 誤字を修正、致しましたで候。