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ようこそ、世界(ゲーム)へ

 

日本最大のゲーム会社「フログティアワークス」が総力をもって製作したVRMMOゲーム。古代文明と魔法のファンタジー世界感をもつこのゲームもついに今日を持って3周年を迎えようとしている。


クロスバル大陸、古代の遺跡や魔法が残るこの世界の基盤とも言える舞台である。北海道の総面積を越えるほどの広大な面積を持つこのゲームの総データ量は、凄まじい量であろう。

 

大陸にはいくつかの都市と、多数の村や街、山脈や森林、そして大陸を囲む壮大な海が広がっている。


各都市はゲートを通じて行き来することが可能で、大陸の全体図は、優秀なプレイヤーが到達することにより、全プレイヤーに情報が広がっていた。しかし、大陸はアップデートたびに拡張されており、現在では東西都市を中心に5割近くの遺跡が攻略されてはいるが、まだ半分の遺跡が未開となっている。


全プレイヤーは大陸に伝わる14つの古代遺跡の謎を解き、大陸北に存在するマップ名「明日への扉」という14の封印を施された道を開く。さすれば古代文明の軌跡を追うことができ、このゲームはストーリーの終わりを迎える。



プレイヤーが最初に訪れることになる都市の一つである、大陸の東に位置するクロスティア都市は、プレイヤー同士のアイテム売買が可能な商業区、プレイヤーホームの住宅地、娯楽施設の並ぶ歓楽街、イベント告知や支給アイテムの配しなどが行われている行政区、海水浴などが行われるリゾートビーチ、都市間の移動やログアウトが可能なゲートエリアなど複数の区間に分かれている。

 

今日は大型アップデートとのこともあり、クロスティアではイベントが全区間で行われており、プレイヤーの数もいつになく多くあふれかえっている。そんな中、クライは久しぶりにログインした。


「すごいな、3年も経てば人口も減るもんだとばかり思ってたが逆に増えてる」


「そうですね・・・けど人が多くて・・・歩くのめんどくさい・・・」


となりでそんなことを言う少女に呆れつつも少し仕方ないかとクライは思った。


少女ことクオは、小柄で他のプレイヤーに比べて頭一つ分以上は背が低い、長身のクライと比べれば二つ分は違うのではないかと思われる。


それでもって華奢な体つきをしている彼女ではイベントのせいで人があふれかえった街を歩くのは困難なのだろう。


「手を引こうか? クオ」


「ん・・・(よろしく)」


差し出された彼女の小さく白い手を軽く握り、人ごみのなかへとクライは足を踏み入れた。


街に並ぶ露店、プレイヤーを眺めながら目的地である行政区へと歩く。


彼女とは、一年前に友人のつてで知り合い、よく一緒に冒険へと出かけていた。


それから何ヶ月かたち、クライは、21歳となり、仕事のほうが忙しくなり、ゲームをする機会が減っていくことで彼女とも最近は会う機会が減っていた。


今日は、仕事もひと段落がつき長年プレイし続けている友人たちとでアップデート手続きと新イベントへの参加をするために行政区へ赴く予定だったが、友人たちが遅れるとのことでクオと二人で先に行くことになった。


「クライは、お仕事の方は、大丈夫なの?」


こっちの顔をのぞくように横を歩いていたクオは、上目づかいで問いかけてきた。彼女には、前々から仕事で最近は、ゲームに入れないかもしれないと言っておいたので気になったのだろう。


「ああ、ひと段落ついたとこで、明日はわからないが今日一日は、大丈夫だ。」


クライは、仕事の内容を思いだしながらそう答えた。


「そう・・・」


「そういうクオはどうなんだ学校は?」


「夏休み」


「ああ、そうか」


クオは学生で、クライとは5歳違いの16歳である。現在は、蒸し暑く日差しが強い真夏頃で学生たちは夏休みに入っている時期だった。


このジ・アームズでも四季はあり、一か月ごとに春、夏、秋、冬と季節変わりするようになっており、四カ月で一周する設定となっている。


季節ごとに風景が都市などでは、変更されており、昼過ぎの現在は春ならではの、ほの暖かな景色が広がっている。ジ・アームズ専用サイトでは、さすがはフログティアだ、凄い、良くできている。というコメントが多く残されているが、現実とゲーム内での季節が違うので違和感を覚えることもたたあることだ。


それだけに、良くできていると言えるのだろう。


「行政区にそろそろ着くけど、クラトスさんからは連絡はあったの?」


「いや、まだなんの連絡もない・・仕方ないし先に手続きしてしまうか?」


「ん・・そうですね。 待ってても仕方ない。 終わらせてしまいましょう。」


「よし、じゃあ ぱっと終わらそう」


「ん。」


一緒に遊ぶ予定だった友人の到着が遅いので、きっと現実のほうで仕事やら学校で遅れているのだろうとあまり気にしても仕方ないので先に済ませてしまうことにした。


もともと古くから共に遊んできた仲間たちだったので、それぞれの仕事や生活の事情というものも少なからず知っているので、こういう遅れたり、こなかったりとした時は、先に行くというのが決められていた。

 

頑丈な魔法仕掛けの門をくぐり、建物の中へと踏み入れて、目的のロビーに入ると何人かの運営チームの管理者が次々と手続きをするために並んだ列を慣れた手つきで処理していた。


「なんであの右端だけ誰も並ばないんだ?」


 それは、・・・管理者の顔・・・かな」


クオは、その管理者のほうを眺めながらそういった。煙草を吸いながら、だるそうにがらの悪そうなおっさんが、そこに居座っていた。


場所が場所ならいかにもな怖い顔をした、いかにも恐ろしそうな男がそこにいた。ちなみに、煙草は、前々から、体への害の問題から、電子煙草などが開発されてきたが、本物には、とうてい及ばなかった。


そこで、VR空間を利用しようと「セカンド」を使った喫煙方法が使われた。VR空間を利用して、本物に近い煙草を吸うことができ、吸っているのに害はないというVR喫煙が流行っていた。


「更新おねがいできますか?」


「・・・おうよ」


以外にもあっさり了承してくれて、淡々と更新手続きを行っていった。


「ほい、更新完了だ。 更新内容などの詳細はデータとして送って置いた。メニューからアイテムboxの重要アイテム欄の6回目大型アップデートについてを参照してくれ。」


「どーも」


クオのほうも、臆するようすはなく、普通に会話をしていた。


「おお、そうそう、お嬢ちゃんが今回のアップデートの1万人目のプレイヤーだ。おっちゃんからこれをプレゼントしようじゃないか」


「・・・なんですか?」


「コイツは、『絆の双紋章』と言う腕輪で二つで一つの役割を持つアイテムだ。所有者のお互いの位置を入れ替えるまたは引きつける。そういう、物だ。ほかにもなんか効果があった気がするが忘れた。」


ようするに、このアイテムを所有するプレイヤーどうしは、離れていてもどちらかの居場所に集まることができる。または、居場所の入れ替えが可能ということだろう。


イベントでは、こういうアイテムの配布が行われており、運がよければ、こうして貴重な物を手にすることも可能だ。


クライたちが更新を終えると、それに続くようにおっさんのとこに更新者の列ができた。案外話せるということがほかのプレイヤーにもわかったのだろう。


更新も済んだことなので、建物をでて、噴水広場まで歩くことにした。


同じように更新手続きが終えたプレイヤーたちで噴水広場の中央は、人が多く、一息つけそうになかったので、クライたちは、休める場所を探すように少し歩くと西端のほうに、ちょうど空いていた長椅子があったのでそこに座りながらクラトスたちの連絡を待つことにした。


「さっきのアイテム、クライが片方貰って」


「いいのか クオ 君のものだよ」

 

「一人で持ってても意味がない」


「そうか、ありがとう、じゃあ自分からは、これをあげよう・・・交換用のメニュー開くから承諾してくれ」

 

「了解。」


交換用のメニューを開いてクオの承諾を待つ。数秒で承諾されたと文字がでて、交換に入る。クオがさきほどの紋章をアイテムからだしクライの交換アイテム欄に置く。


貰うだけだと悪いと思い、クオが好きな、ミャル猫というこのゲームないに存在する。猫のグッズをクオの交換アイテム欄に置いた。そして、承諾を行う。これでアイテム交換が成立された。


こういうアイテムや金銭(ミラ)取引は、相手を選び交換用のメニューを開き承諾を待つか、商業地区などで商売用の店を開き、売買するか、あとひとつは、フィールドで対人戦を行い、他のプレイヤーを倒すことで、奪うことができる。


「ありがとな、クオ」


「こちらこそ、ありがとう。これ好きなの気にいった。」


もともと、クオがミャル猫のグッズを収集していることを知っていたので、クライは、ひそかに集めておいたのだった。


アイテムの交換を終えたところでクライの情報端末がコールを呼びかけた。


情報端末は、携帯電話のようなもので、ゲームについての情報が検索できる。運営からの重要な知らせなどもこれに記載される、今までの従来のゲームのチャットなどの機能の代わりとしてVR空間では使われる重要な物だ。


「誰から?」


「ああ、セアさんからだ」


「セアさんから・・・クラトスさんと一緒?」


「そうみたいだ、クラトスがセンバック草原のボス狩りに参加するって言って聞かないから貴光と一緒に参加してから、終わり次第こっちに合流するとさ」


センバックは、クロスティア都市の西に位置する大草原エリアでそこの奥地に強いエリアボスが存在する。このボスは、最低でも上位プレイヤーが3パーティー、5人の3チームが束になって挑む。もちろんボスというだけあって、退治するのにも、時間がかかる。


「そう、じゃあ、まだ時間がかかりそう・・・」


「そうだね、アイツには困ったもんだよ。セアさんも苦労するだろうに」


セアさんことプレイヤー名、セアニス、貴光、クラトスは、3年前の開始時からプレイしている古参プレイヤーの3人で、クライも良く一緒にパーティーを組み冒険を楽しんでいた。

 

「ホント。待ってる側のこと・・考えて。」


クラトスの気ままな行動に呆れつつ、二人は長椅子に座っていると、女の子と男の子二人の三人組のプレイヤーが話かけてきた。


「すみません、ちょっとよろしいですか?」


さらさらした茶色の長い髪の少女は、クライたちの前に堂々と立ち、話しかけてきた。


「ああ、いいよ、どうかした?」


クライは、立ちあがりながら答えた。


「今日、始めたんですが、どのあたりの狩り場が良いか教えていただけますか。」


「そうだね、北口からでてすぐの森なんかがいんじゃないかな。」


「クライ。 今は、人が多い・・・あの場所は、狩り場がない。ここは、支援要請クエストの東ヌオ海のパオールキング退治がオススメ。」


そうなのか、けどボスは早くないか、あのボスは強いって聞く、今日始めたばかりの三人じゃあ厳しんじゃないかな。」


パオールは、半魚人のエネミーで何体かの群れで現れる、それを束ねるのがパオールキングで身の丈2メートルを越える、青い皮膚と鱗を持つ、始めたプレイヤーの最初の壁にあたるボスエネミーになる。


「そう? なら、私たちも行こ・・・暇。」


「なるほど・・ごめんけど俺たちも一緒にで良いかな?」


三人は顔を合わせて一言二言会話したあと、女の子が返答した。


「はい、おねがいします。」


「よし、じゃあ決まりだな、早速行こうか。」



「とりあえず、いろいろ教えて」


まず、基本的なもので8つの戦闘スタイルがある

剣術、体術、槍術、弓術、魔術、暗殺術、結界術、斧術


これら戦闘スタイルを、プレイヤーたちは使用する。


スタイルは、複数使うことが可能で2つ以上のスタイルを使用するプレイヤーもいるが戦闘スタイルごとに経験値が異なるので単純に考えると2つ両方の熟練値をあげるには2倍の時間が必要である。それ以上ならさらに時間が倍必要になってくる。


「な、なるほど。ようするに最初は一つに縛ったほうが良いのですね」


緑色の髪のシオンと名乗った少年が難しそうに頷いた。


「まあ、一つのみに特化した上位プレイヤーが多いがな、全部あげてる奴もいないことはない」


「とくに、難しく考えなくても好きなものを少しづつ上げていけば良い。」


「そうです、クオちゃんの言う通りだわ」


クオより年上とわかったからかアカリはちゃんづけで呼ぶことにしたらしい。

彼女は、ハキハキと喋る元気な女の子で3人の中では、リーダー的な立場のようだ。


「そうだよ、気にすんなよ、シオン だらーっとやろうぜ」


ロックと言う3人のもう一人がシオンにむかって話した。


3人は、学校が同じ学生で昔から中の良いグループだそうだ。ジ・アームズにはアカリが二人を誘い3人で今日、始めたのだそうだ。もともとこのゲームは、大人数での参加が支流でこういう仲良しグループも珍しくはない。


エリア名「東ヌオ海、パオールの浅瀬」にでてすぐにもともと広くないこのエリアでキングの姿が確認できた。


「それじゃあはじめようか」


クライは、言葉とともにエネミーに向かって駆けだした。

 

 「閃狼脚波(せんろうきゃくは)


駆けだした助走を使って体術の高速三段蹴りスキルを一番近くにいたパオールに与えた。そのまま、止まることなく、その後ろのエネミーに、剣を鞘から抜きながら発動する剣術、抜刀スキルを放った。


 「一閃(いっせん)


横薙ぎに放ったスキルは、システムのアシストを受け、通常では不可能な神速の一撃を後ろのパオール2匹に直撃させてHPをゼロに持っていき、エネミーを構成するポリゴンを消滅させようとする。


その消滅しようとしていたポリゴンを突き抜け、さらに奥の3匹に対して、地面をえぐるように下から上に向かって剣を薙ぎ払う重攻撃スキルを発動した。抜刀スキルからの続けざまの攻撃に相性の良い、前方2メートルの敵に重いダメージを与える放出系の強攻撃だ。


 「雷衝刃(らいしょうは)


ボスの回りにいた6匹のエネミーが崩壊する音とともに、ポリゴンの残骸となり消滅した。

俺は、剣を一度上下に振り払い、腰の鞘に収めた。



じゃまがいなくなったことを確認したクオが結界術、並び歩む氷楯を唱え始めた。


「友を守る、氷結なる楯・・・[アイシング・シールド]」


3人の周りに半透明の氷の楯が具現化され周りを回り始める。


「私はサポートです。ボスは3人に任せます。」


「はい」「おう」「うん」


3人は一斉に動きだした。


剣士のシオンが左から剣術スキルのスラッシュを行った。斜めから振り下ろされる一撃が光り輝くエフェクトとともに放たれる。 キングの表皮へとその攻撃は届き赤い光りとともにライフバーが1割減少した。


キングは、その攻撃をものともせず荒々しい咆哮(ほうこう)とともに攻撃モーションに入る。


「ぐおぉぉ!」


「させねーよ」


ロックが叫びながらキングの懐に入り込み槍術のスキル、ブレイクアッシュを放つ。槍による突進攻撃でライフバーをさらに1割減らし、キングの攻撃モーションを遅らせた。


その間に、シオンは、後ろにバックステップをとり、攻撃をかわしてみせた。


しかしキングはボス特有の自然回復により、徐々にライフを回復しつつあった。


「まだだ!」


シオンとロックが走りこみながら両側から剣と槍による斬撃を何度も加える。それに対してキングは、水を吐きだし反撃を加えるが、クオが展開しておいた結界術の氷楯に阻まれ、攻撃が一つも届かない。


そんなやりとりを繰り返しキングのライフが3割まで減ったところでアカリが魔術、サンダーストライクを発動した。電撃の光線の束が一直線にキングを貫き海面まで吹き飛ばした。


「ギィー」

奇声とともに、キングのHPががくりと減り、海のなかへと水しぶきを上げ沈んだ。


「よし、勝ったぜ」


「はぁ」


「まあ当然ね」


三者とも武器を収めたとこで、氷楯が役目を終え消失した。戦闘が終わり、油断していると突然大きな水しぶきとともにキングが海面から現れ、巨大な水弾を放った。その攻撃は、不意をつかれた三人に直撃してHPを8割近くもえぐり、HPバーが警告の赤の点滅を示した。


「しまった」


三人が反省の越えとともに体勢を立て直すより早くキングが再攻撃モーションに入り、さっきより一回り大きな水弾を放つ。


しかし、その攻撃が三人に届くより早く、クオが結界術を発動した。


「仇なすものより身を守る、氷の障壁を具現せよ・・・[イージス・アイシクル]」


水弾は、あと少しで三人をとらえようとしたところで展開された氷壁が水弾を弾き返し消滅させた。

さらにキングはもう一度攻撃モーションに入ろうとさっきより甲高い奇声をあげ海水を吸い込んだ。


「ぎぇええ!!」


「やらせない!」


クライは、いっきに移動するために、体術のスキル[月影(げっか)]を利用して、前方に跳躍した。


「は!」


そのままの移動を利用して、タックルをキングに与える。

攻撃モーションに入ろうとしていたキングは、態勢を崩して浅瀬に転がった。


「いまだ!」


クライの言葉に答えるようにロックとシオンがキングの胴体に対して剣を突き刺した。


キングは今度は海に沈むことなく淡い光りに包まれて、霧のようにポリゴンを散らして消えた。


「今度こそ終わり?」


「勝利。」


アカリの問いにクオが答えた。



その後、2,3個のクエストをこなしたあとに、まだクエストを続けると言う3人と分かれて街に帰還した。


「ザ、ザザ」


「ん!?」


街のエリアに入った時に数秒、ノイズと視界がゆがむような現象が起きた。


「さっきのは?」


「クオもさっきの感じたのか?」


「うん、少し変な音のあと視界がゆがんだ。」


「俺も、そんな感じだった。」


二人とも、その時違和感を感じたが、今日のアップデートで何か軽い問題が生じたのだろうとすぐに運営が改善すると思いそれ以上は、気にするのをやめた。



しかし、街の中央広場にでてすぐにあらたな異変に気付いた。


中央広場の台座の上で管理者と思われる数人がなにかを話しているようだった。


管理者いわゆる運営サイドの人間は、我々とは違いVR空間(セカンド)とフル接続しておらず、簡易的な接続をしているだけなので、若干透明な身体が管理者だとすぐにクライにもわかった。

それに対して、複数のプレイヤーが何か怒鳴り散らしている。


「申しあけございません。すぐに原因をつき止めますので少々お待ちくださいませ」


「さっさとしろよ、こっちはこれから用事があるんだ!」


「そうよ! はやくしてよね」


「そうだ、そうだ」


最初の一人に釣られてか複数の抗議の声が次々と台上の管理者に投げかけられる。


「ご迷惑をおかけします。管理者一同、全力を尽くしますので少々お待ちくださいませ」


管理者の一人が謝罪を述べ、深々と頭を下げた。


「なんか、あったのですか?」


クライは、すぐ近くにいた、赤いバンダナをした男と赤い華やかな着物を着た男女に話かけた。


「ああ、どうもログアウトができない。俺も用事があるんだがな。」


「ためされたのですか?」


バンダナ男は、手でバンダナを触りながら困ったように答えた。


「・・・ダメだった、ホントに用があるだがな・・お前もダメだったろ?」


「ええ、さっきゲートまで行ってきたけど無理だったわ」


着物女性は、バンダナ男の問いにすぐに答えた。


「そうですか・・どうも。」


クオは二人に礼をして離れたあと、クライと相談して自分で確かめてみたほうが良いと考え、ゲートへ向かうことにした。


「どうしようもない・・・」


「まさか、ログアウトだけじゃなくて、都市から都市への移動もできないとは」


どのプレイヤーも、一度新しい都市まで、歩いて入ってしまえば、あとは、このゲートを使い、ワープによる移動を基本としているので、これが使えないとなるとかなりの痛手となってくる。


「なんなんだよ! どうなってやがる!」


一人の男性プレイヤーが都市外のエリアから怒鳴りながら入ってきた。


「どうかしたのか?」


あまりにも普通ではなかったので、もしかしたら、この問題と関係があるかも知れないと俺は、男を呼び止め話してみることにした。


「さっき外でエネミーと戦ってたんだが、急にダメージを受けた時の痛みを感じるようになったんだ。」


「痛みをですか?」


「ああ、現実ほどじゃないけど、たしかに、痛みを感じた。」


VR空間技術では、現実に近付けるため、日々今も改良されつつあるが、感覚神経おもに痛覚については、痛みが死へつながる問題を重視して、食感などの感覚を残して痛覚が取り除かれている。


もちろん、この技術を応用したこのゲームも同じことが言えるのだが、それが今は彼の話では、取り除かれた部分である痛覚を感じると言う。


「となると、痛覚以外の感覚もなにか変化があるかも。」


クオの言うことにクライはもっともだと思い、いろいろとためしてみることにした。


戦闘や食事、簡単にすぐできる行動をとってみると、戦闘に対しては男の言っていた通り、痛みを感じるようになっていた。食事については、味が濃くなって感じることが分かった。


それから、何人かに聞き込みをして情報の処理を行った。とりあえず、現状ではログアウトは不可能であり、感覚神経を刺激する錯覚を脳に起こす信号体、ようはVR空間技術(セカンド)に深刻な問題が発生していると言える。


もちろん[ログアウト不可能]なんていう、この問題(バク)は、運営会社にとっても倒産どころではなく、VR空間技術の一からの見直しなんてことにもなる、大きなトラブルとなるだろう。


だからこそ、現在の運営サイドは、先ほどの謝罪からずっと対処に追われているはずなのだが、もうあれから、1時間が過ぎようとしている。


(さすがに時間がかかりすぎてる)


なんの対処もされた連絡もなく、時間だけが、すぎようとしている。さすがに問題がほとんどのプレイヤーに伝わったのだろう。都市の外に出ようとするプレイヤーは、いっさいおらず都市は埋め尽くすようにプレイヤーであふれ返っていた。


                     


運営サイドが、我々プレイヤーを置き去りにして、自分たちは、この世界から現実へ帰還したことを知ったのは、次の日を迎えた頃だった。不審に思ったプレイヤーが運営サイドの所有する行政区の建物に入った時、見たものはがらんとした誰もいない部屋と、重要かつ我々を絶望に落とす一つの情報だけだった。


「これから、大変になりますね」


「ああ、そうだな」


当時のクライたちは、そう言うことしかできなかった。



 






 



 






11月17日 誤字及び修正を行ったで候。

11月18日 誤字及び修正を行ったで候。

11月27日 誤字及び修正を行ったで候。

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