妹に婚約者を奪われるループから抜け出せないから全てを壊してやろうと思ったらそれが正解でした
※一部、残虐な表現があります。
何人の「妹」を、不幸な目に遭わせてきただろうか。
「あら、お姉さま。今日もお勉強ですか?」
妹のフレッサが声をかけてくる。
「え、ええ。そうなの」
――また、この日に戻ってしまった。
私――アマンダ・ソールズベリーは前世の記憶を持っている。あるとき急に「思い出した」のだ。
その記憶によると、私は別の世界で生み出された物語の悪女らしい。妹が話の主役。私は脇役。
信じがたいけれど、はっきりと覚えているのだ。
私は伯爵令嬢として普通に生きていると、いずれみんなに嫌われ、婚約者である侯爵令息のセッツァー様に断罪され、真実の愛の名の下に二人に殺される。
妹に陥れられるのだ。
姉を慕うよい妹だったが、ある時からセッツァー様と恋仲になり、私が邪魔になるらしい。
だから、それを知ってからというもの、必死に生き残るために頑張ってきた。
だけど、私が助かる道を選ぶと、なぜか必ず妹が不幸になり、死ぬのだ。
すると、時間が巻き戻る。
三年前の、この時に。
前世の記憶も、それまでの記憶も持ったまま。
私は延々とこのループを彷徨っている。
――また、またこの日に。どうすれば良いの!
私は机の上の教科書を叩く。もうとっくの昔に一字残らず暗記してしまった。
一人逃げ出してもだめ。
家に引きこもってもだめ。
セッツァー様から身を引いてもだめ。
セッツァー様の愛を勝ち取ってもだめ。
妹を先に殺してもだめ。
どうして良いのかもうわからなかった。
ただ、最後に殺した妹の生々しい首の感触と、苦しみと憎しみの視線だけが焼きついていた。
神に祈っても。
悪魔に願っても。
何も変えることができない、絶望。
ただ、死にたくない。それだけのために何十回も「三年間」をやり直して来た。すでに人の人生よりも長い時を過ごしてきてしまった。
そうだ。
どうせだめなら、この変わらない世界を滅ぼして、死のう。悪女なら、悪女らしく。
数日後。私は魔法で街を火の海にした。
特別魔法の才能があったわけではない。しかし人生の何倍もの時間を費やして研鑽された私の魔法は、すでに人の領域にはなかった。
「燃えろ、燃えろ! 全部燃えてしまえ!」
私は燃え落ちる王都を上から眺めていた。
妹は死なないように魔法で隔離している。私が死ぬ前にあれに死なれては元も子もない。
「アマンダ! ……お前が魔女だという話、本当だったのだな!」
婚約者のセッツァー様が地面から私に剣の切先を向ける。
そんな鉄の棒ごときで私に何をしようというの?
「あら、セッツァー様。妹から聞きましたの? そのお話。あの子の言うことなんて全部嘘。貴方はいつだって騙されて私に酷いことをなさるのですよ」
「今のお前は魔女そのものではないか! 私はお前を信じていた! 愛していた! なのに! なぜこんなことを!」
何回も、何回も、妹に簡単に丸め込まれて来たくせに。
「この」セッツァー様にはまだ罪はないのかもしれない。でも、もうどうでも良かった。
「あなたも一緒に死にましょう」
私はセッツァー様に炎の魔法を放った。
その爆炎がセッツァー様を包み込むその瞬間。
私は目を覚ました。
*
「ここは……」
ジメジメとした、古い地下牢のような場所。
見覚えがある。
ピチョン
水が落ちる音。見ると、隅に水溜りがある。
そこを覗き込む。高いところの鉄格子から漏れる光に照らされ、私の顔が水面に映る。
「フレッサ……?」
手を見る。
私の手と似て非なる手。妹の手。
ニヤリ。
水面に映る見慣れた妹の顔が、見たこともないような邪悪な笑みに歪む。
「そういう、こと」
ついに、進んだ。私の「三年間」が。
ここは、つい数時間前に私が妹を拘束した場所。
私はそこで、拘束されたフレッサになっていた。牢は私の魔法で封じられている。
「解けろ」
私は手をかざし、アマンダとして学んだ魔法を使ってみる。
すると、魔法の封印はあっけなく消え去った。
「魔法は変わらず使えるのね」
私は外に出る。
街は炎に包まれている。
あっちだ。
私はフレッサになる直前に見た光景を思い出し、その場所へ急ぐ。
「セッツァー様!」
「フレッサか。無事だったか、よかった。アマンダは?」
途中で、セッツァー様と合流する。
「姉が、アマンダがこれを引き起こしました。あの女は魔女になってしまったのです!」
私はセッツァー様に訴える。
「なんだと!? ……いや、私はそんな話は信じない。愛する人をそんなふうに言えるものか。この目で確かめなくては」
走り出すセッツァー様。
私は少し遅れて着いていく。
「アマンダ!」
燃え盛る炎の中、宙に浮く「私」を見つけるセッツァー様。
「セッツァー様……? それに、私? これは、一体……」
宙に浮くアマンダは困惑している。
セッツァー様は剣を抜き、構える。
「……お前が魔女だという話、本当だったのだな!」
その「私」は宙に浮き、手のひらには火炎の球が浮いている。
業火の中に浮かぶその姿は、どう見ても魔女そのものであった。
あの私はフレッサなのだろう。
私は内心でほくそ笑む。
そうであるならば、あるいは。
「お姉様……いえ、魔女アマンダ! 覚悟なさい!」
私は最も初級の、フレッサが使えてもおかしくない氷の魔法を唱える。
小さな氷の刃が生まれる。でも、中身は私の理不尽なまでの魔法の力の賜物。人一人を殺すなど造作もない暴力の源。
「フレッサ!? 待て!」
「……ぁが……!」
セッツァー様、遅すぎますわ。
その刃は「魔女」の胸をやすやすと貫き、虚空へと消えた。
地面に落ちる私だったもの。すでに絶命していた。
「アマンダー!」
セッツァー様が絶叫する。
それはアマンダじゃない。魔女ですわよ?
ああ、ほら! 時間が戻らない!
これが正解だったのね? 意地の悪い神様。それとも物好きな悪魔かしら?
「アマンダ……どうして……。私は君を心から愛していたのに……」
神でも悪魔でもどちらでも良い。やっと次の一歩に進める。フレッサとして。
「アマンダ……アマンダ……アマンダ……!」
セッツァー様は魔女の骸の傍らに膝をつく。
「セッツァー様、貴方にはこの私がおりますわ。ここは危険です。お立ちください」
その声に、虚な瞳で顔を上げるセッツァー様。
「参りましょう、セッツァー様」
「フレッサ」が主役で、「アマンダ」が悪女。
「フレッサ」はセッツァー様と共に「アマンダ」を殺す。
妹に陥れられるのだ。姉は。
記憶の通りではないですか。
私がまず悪女になるべきだったのですね。
私はセッツァー様のお手を取る。
悪魔のような、狂気と共に。
そのとき。
ザンッ
私は、首のないフレッサと、剣を手にしたセッツァー様を見下ろしていた。
えっ
その言葉が音になることはなく、私の首は宙を舞い。
――そんなに私を憎むほど、私を愛してくださっていたのですか?
そして、意識が、途切れた。
*
「はっ……!」
目が覚めた。
酷い悪夢だった。
寝汗がすごい。
私は身体を起こす。慣れ親しんだ家の子供部屋。
視線の先では、私――アマンダが机に向かっている。
「えっ」
手を見る。
私のようで、私でない手。
鏡を見る。
見慣れた、妹の顔――
まさか。
できるだけ平静を装って、目の前の「私」に声をかける。
「あら、お姉さま。今日もお勉強ですか?」
「え、ええ。そうなの」
ああ。
また、この日。
だけれど、妹は私で、私は私になった。
ならば、物語の通りにセッツァー様を奪いとりましょう。
三年かけて虜にすれば、あの様な暴挙もなさらないでしょう。
私をあれほど愛してくれているのなら、引き寄せるなど造作もないこと。なぜなら、私は私なのだから。
姉は、妹に、陥れられるのだ。
お読みいただきありがとうございました。
また少し違う作風を目指して書いてみました。
お気に召しましたら評価や反応をいただけると嬉しいです。




