第一章・第6話
旅立ち
夜。
街は、まだざわついていた。
エクリプスの襲撃の噂が、
あっという間に広がっていた。
Rは、ユナの花屋の前に立っていた。
シャッターは、半分下ろされている。
中から、灯りが漏れていた。
Rは、ゆっくりと扉を開ける。
「……R?」
ユナが、振り返った。
仮面は外している。
その顔は、少しだけ疲れていた。
「……無事でよかった」
Rは、短く頷く。
「……俺、街を出る」
ユナの目が、見開かれる。
「……え?」
Rは、拳を握りしめた。
「今日、何も守れなかった。
仮面があっても、なくても……」
言葉が、震える。
「……強くなりたい」
ユナは、しばらく黙っていた。
それから、静かに微笑んだ。
「……Rは、逃げるんじゃないんだね」
Rは、驚く。
「……逃げる人は、黙って消える。
Rは、ちゃんと“行く”って言ってる」
ユナは、カウンターの奥から、
小さな布袋を出した。
「これ……持ってって」
中には、
Rがもらった、あの小さな花の種が入っていた。
「……帰ってきたとき、植えよう」
Rは、受け取る。
「……ありがとう」
ユナは、少しだけ照れたように笑った。
「……死なないでね」
Rは、強く頷いた。
店を出ると、
路地の向こうに、カイがいた。
壁にもたれて、腕を組んでいる。
「……やっぱり、行くんだな」
「……ああ」
カイは、口の端を上げた。
「俺も行く」
Rは、目を見開く。
「……なんで」
「面白そうだから」
カイは、軽く言ったが、
その目は、本気だった。
「……それに」
少しだけ、真面目な声になる。
「お前、放っとけない」
Rは、何も言えなかった。
その時、
闇の中から、低い声がした。
「……遅い」
クロウだった。
街の外れ、
街灯の下に立っている。
「……行くなら、今だ」
Rとカイは、顔を見合わせる。
そして――
Rは、一歩前に出た。
「……連れていってください」
クロウは、Rを見る。
少しだけ、目を細める。
「……後悔するぞ」
「……しても、戻りません」
クロウは、ふっと息を吐いた。
「……いい」
そう言って、背を向ける。
Rとカイは、その背中を追った。
街の灯りが、少しずつ遠ざかっていく。
――Rは、振り返らなかった。
もう、“戻る場所”じゃない。
ここからが、
本当の始まりだ。




