第一章・第5話
【仮面の男】
クロウは、ゆっくりと前に出た。
幹部は、鼻で笑う。
「……一人で来たのか。
死にたいのか?」
クロウは答えない。
ただ、静かに仮面の縁に指をかけた。
――カチリ。
その小さな音だけで、
Rの背中に、ぞくりと寒気が走った。
「……エクリプスのやり方は、変わらんな」
クロウは、淡々と言う。
幹部の眉が、ぴくりと動いた。
「……知っている口だな」
「昔、少しだけな」
クロウは、目を伏せる。
次の瞬間――
消えた。
「……っ!?」
幹部が、目を見開く。
だが、もう遅い。
クロウの拳が、
幹部の腹に、静かに沈んだ。
――ドン。
空気が、爆ぜた。
幹部の体が、後ろに吹き飛ぶ。
「な……!?」
Rは、言葉を失った。
――仮面の力を、感じない。
なのに――強い。
クロウは、追い打ちをかけない。
倒れた幹部を、ただ見下ろす。
「……帰れ」
幹部は、苦しそうに立ち上がる。
「……名を、名乗れ」
クロウは、一瞬だけ黙ったあと――
「……必要ない」
そう言って、背を向けた。
黒仮面たちは、
その背中に、誰も追撃できなかった。
――本能が、止めていた。
エクリプスの連中は、
仲間を抱えて、撤退していった。
静寂が、戻る。
Rは、地面に座り込んだまま、
クロウの背中を見ていた。
「……あなたは……」
クロウは、振り返らずに言った。
「生きたいなら、立て」
その言葉に、
Rは、震えながら立ち上がった。
クロウは、初めてRを見る。
「……仮面を、外せ」
Rは、迷ったが、
ゆっくりと仮面を外した。
クロウは、Rの素顔を見て、
小さく頷いた。
「……いい目だ」
それだけ言って、
また歩き出す。
Rは、無意識に口を開いた。
「……待ってください」
クロウは、足を止める。
「……教えてください」
「何をだ」
「……どうすれば、
あんなふうに、なれますか」
クロウは、少しだけ黙った。
そして、静かに言う。
「……捨てることだ」
Rは、首を傾げる。
「……捨てる?」
クロウは、空を見上げた。
「仮面に頼る心を、だ」
その言葉は、
Rの胸に、深く刺さった。




