第二章・第4話
【影の名「ゼオン」】
夕暮れ。
空が、血のように赤く染まっていた。
Rたちは、丘の上に立っていた。
さっき倒した斥候の仮面を、
クロウが調べている。
「……エクリプスの中でも、下の方だな」
クロウは、淡々と言う。
その時――
拍手が、響いた。
――パン……パン……。
静かな拍手。
三人は、振り向く。
丘の反対側に、
ひとりの男が立っていた。
長いコート。
顔には、黒と銀の混ざった仮面。
だが――
“格”が違う。
ただ立っているだけで、
空気が、重くなる。
「……いい戦いだった」
低く、落ち着いた声。
Rは、直感で分かった。
――こいつは、違う。
クロウが、一歩前に出る。
「……エクリプスの、幹部か」
男は、くすっと笑った。
「……そう呼ばれることもある」
そして――
仮面の下で、
ゆっくり名乗る。
「……俺の名は、ゼオン」
その名を聞いた瞬間、
Rの背筋が、凍った。
「……R、下がれ」
クロウが、低く言う。
だが、Rは、動けない。
――体が、言うことを聞かない。
ゼオンは、Rを見た。
「……ほう。
仮面もつけずに、立っている」
少しだけ、興味を持った声。
「……面白い」
次の瞬間――
ゼオンは、消えた。
「……っ!?」
Rの視界が、揺れる。
気づいた時には――
Rの喉元に、
ゼオンの指が当たっていた。
――一瞬。
それだけで、
Rは、動けない。
「……弱いな」
ゼオンは、囁く。
「……だが」
クロウを見る。
「……こいつの弟子か」
クロウの目が、鋭くなる。
「……手を離せ」
ゼオンは、少しだけ笑った。
「……変わらないな、クロウ」
Rは、はっとする。
「……知り合い……?」
ゼオンは、指を離し、
Rを突き飛ばした。
「……昔な」
Rは、地面に倒れた。
息が、詰まる。
ゼオンは、空を見上げる。
「……ノクス様は、こう言っていた」
クロウの方を見る。
「……“まだ、生きているとは思わなかった”」
クロウは、無言。
ゼオンは、再びRを見る。
「……R」
名前を呼ばれて、
Rは、ぞくっとした。
「……今は殺さない」
ゼオンは、背を向ける。
「……育てる価値が、ある」
そう言って、
闇の中へ消えた。
静寂。
Rは、震えながら立ち上がる。
「……クロウ……あいつは……」
クロウは、低く言った。
「……最悪の男だ」
空は、もう暗くなっていた。
そして、Rは――
はっきりと分かった。
――いつか、あいつと戦う。




