ジト目が素敵な銀髪美少女との日常生活
異世界とは違って現実世界では、そうそう驚くようなイベントは起きませんが、かと言って一生何もないわけではないでしょう。平凡な日常に不意に訪れる奇跡とも言える出来事、なんて言うほど大袈裟な事では無いかも知れませんが、青春時代に誰もが経験するちょっとした思い出を書いてみました。良かったら最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
秋の風が落ち葉をさらっていく午後、俺は学校帰りにいつもの公園へ寄り道していた。ベンチに腰掛けて、スマホでゲームのイベント情報を眺めていると、視界の端に誰かが立っているのが見えた。
銀髪の少女だった。制服姿で、膝をついて落ち葉を拾っている。その髪は陽の光を受けて、まるで月光のように淡く輝いていた。
「……何見てんのよ」
突然、彼女がこちらを睨んだ。ジト目だ。目尻がわずかに下がっていて、怒っているというより、呆れているような表情。
「え、いや……落ち葉拾ってるの珍しいなって」
「はぁ? 別にあんたに見せるために拾ってるわけじゃないし。暇だからやってるだけよ」
そう言いながらも、彼女は落ち葉を一枚ずつ丁寧に並べていた。赤、黄、茶色――まるで色彩のパレットみたいに。
「……キレイだな」
俺がつぶやくと、彼女は一瞬だけ手を止めた。そして、顔をそらしながら小さく言った。
「……そ、そういうの、急に言わないでよ。バカ」
ツンとした態度の奥に、ほんの少しだけ照れが混じっていた。
その瞬間、俺は思った。
この子と、もっと話してみたい――と。
「なあ、さっきから気になってたんだけど……名前、聞いてもいい?」
俺がそう言うと、彼女は一瞬だけ目をそらした。ジト目のまま、少しだけ頬を赤らめて。
「……別に、教えてもいいけど。あんたが変なことしないって信じられるなら、ね」
「しないしない。俺、見た目通りの善良市民だし」
「……ふん、信用はしてないけど。ま、いいわ。**“白雪 つかさ”**よ」
「白雪……つかさ?」
「そうよ。文句ある?」
「いや、ない。なんか……名前もキレイだなって思って」
「~~っ! そ、そういうの、軽々しく言わないでよ! バカ!」
彼女はぷいっと顔をそむけたけど、その耳はほんのり赤く染まっていた。
「そういえばさ、つかさって……最近この辺に引っ越してきたの?」
俺がそう尋ねると、彼女は落ち葉を並べる手を止めて、少しだけ視線を下げた。
「……なんで知ってるのよ」
「いや、見たことなかったし。制服も違うし、なんとなく」
「……ふん。まあ、そうよ。引っ越してきたばっか。転校もしたばっか」
「そっか。慣れた?」
「……別に。慣れる気もないし。うるさい人ばっかだし」
「でも、こうして公園で落ち葉並べてるのは……ちょっと楽しそうに見えるけど」
「~~っ! ち、違うし! 暇つぶしよ、暇つぶし!」
彼女はぷいっと顔をそむけたが、その声はどこか寂しげだった。
「……でも、俺はちょっと嬉しいよ。こうして話せて」
「……バカ。そういうの、軽々しく言わないでよ」
彼女のジト目が、ほんの少しだけ柔らかくなった気がした。
なあ、つかさ。よかったら……友達にならないか?」
俺がそう言うと、彼女は一瞬だけ目を見開いた。けれどすぐに、ジト目に戻って、ため息をついた。
「……はぁ? 何言ってんのよ、急に」
「いや、なんか……話してて楽しいし。もっと話したいなって思って」
「……ふん。あんたみたいな鈍感で、ラーメンの話しかしないような男子と、友達になりたいなんて思うわけないでしょ」
「えっ、ラーメンの話は関係ある?」
「あるに決まってるでしょ。しかも、あんた……私の名前覚えたばっかじゃない」
「でも、名前聞いたし、こうして話してるし……」
「……バカ。そういうの、軽々しく言わないでよ」
彼女は立ち上がり、制服のスカートを軽く払った。そして、俺の方を見ずに言った。
「……友達になりたいなら、もっとちゃんと私のこと知ってからにしなさいよ」
そう言い残して、彼女は公園の奥へと歩いていった。
その背中は、どこか寂しげで、でも少しだけ期待しているようにも見えた。
日曜日の昼下がり。天気は快晴、風は少しだけ涼しくて、釣りにはちょうどいい日だった。俺は近所の釣り堀に来ていた。人も少なくて、のんびりとした空気が流れている。
餌をつけて糸を垂らした瞬間、視界の端に見覚えのある銀髪が揺れた。
「……あんた、またいたの?」
振り返ると、制服ではなく私服姿の白雪つかさが立っていた。ジト目は健在だが、どこか困ったような表情をしている。
「つかさ? 釣り、するの?」
「……うん。なんか、大家さんに勧められて。暇ならやってみろって」
「なるほど。でも、初めて?」
「……うるさい。そうよ。何か文句ある?」
「ないない。じゃあ、教えてあげるよ。釣りって意外と奥深いんだぜ」
俺は彼女の隣に座り、竿の持ち方から餌のつけ方、糸の垂らし方まで丁寧に教えた。つかさは最初こそ不機嫌そうだったが、徐々に真剣な顔になっていった。
「……こう? あ、ちょっと引っ張られてるかも」
「お、来たかも! 竿をゆっくり持ち上げて……そうそう!」
小さな魚が釣れた。つかさは目を丸くして、それからほんの少しだけ笑った。
「……ありがと。あんた、意外と役に立つのね」
「意外とって何だよ」
「ふふ。まあ、ちょっとだけ感謝してあげる。ほんのちょっとだけ、ね」
ジト目の奥に、柔らかな光が宿っていた。
この距離、少しだけ縮まった気がした。
釣り糸を垂らしてしばらく経った頃、喉が渇いてきた。
俺は釣り堀の端にある自動販売機へ向かい、財布を取り出す。
「さて、何にしようかな……」
ボタンを眺めながら、ふと思った。
――つかさの分も、買っていこうか。
さっきは日差しの下でずっと釣ってたし、きっと喉も渇いてるはずだ。
でも、そこで手が止まる。
(……いや、待てよ。俺、彼氏でもなんでもないし。
いきなりジュース差し出して、“下心でもあるの?”とか思われたらどうしよう)
自販機の前で、俺は缶コーヒーのボタンを押す指を宙に浮かせたまま、しばらく固まっていた。
(いや、でも普通に気遣いだろ。友達として……いや、まだ友達ですらないんだっけ)
「……くそ、悩むなあ……」
結局、俺は缶コーヒーを2本買った。
1本は自分用、もう1本は――
(もし変な顔されたら、自分で2本飲めばいいだけだ)
そう自分に言い聞かせて、缶をポケットに突っ込んだ。
釣り座に戻ると、つかさはまだ真剣な顔で浮きを見つめていた。
俺は、缶を差し出すタイミングを探しながら、彼女の横にそっと腰を下ろした。
缶コーヒーを2本握りしめて、釣り座に戻る。
つかさは相変わらず真剣な顔で浮きを見つめていた。風が銀髪を揺らし、頬にかかるたびに指でそっと払っている。
俺は、コーヒーを渡すタイミングを探していた。
でも、ふと彼女をチラリと見た瞬間――
雷に打たれたような衝撃が走った。
(……可愛い)
その一言が、頭の中に鮮明に響いた。
ジト目なのに、どこか儚げで、真面目で、ちょっと不器用で。
こんな子と友達になりたい。いや、友達じゃなくてもいい。
ただ、こうして話せるだけで、隣にいられるだけで――幸せな気持ちになれる気がする。
気づいたら、俺の手は自然に動いていた。
「……これ、よかったら」
缶コーヒーを差し出すと、つかさは一瞬だけ驚いた顔をした。
それから、ジト目で俺を見つめて、ゆっくりと受け取った。
「……ありがと。別に、嬉しくなんかないけど。ちょっとだけ、助かっただけ」
「そっか。ならよかった」
「……でも、次からは聞いてからにしなさいよ。勝手に気を利かせるの、ずるいから」
「え、ずるいの?」
「……うるさい。バカ」
彼女は缶を開けて、そっと口をつけた。
その仕草が、また少しだけ俺の胸を打った。
缶コーヒーを受け取ったつかさは、無言で一口飲んだ。
俺も自分の缶を開けて、隣で静かに飲む。
(……これで俺とつかさは、一緒に食事を――いや、缶コーヒーを飲んだ仲だ)
それはもう、赤の他人とは違う。
言い換えれば「関係者」だ。
この距離、この空気、俺の中では確実に何かが始まっている。
(……よしっ)
悟られないように、表情を変えずに心の中でガッツポーズを決めた。
だが、自然と顔がニヤけてしまうのを必死に堪えていたその瞬間――
「……あんた、なにニヤニヤしてるわけ?」
ジト目が、すぐ横にあった。
「えっ!? いや、別に……コーヒーが、思ったより甘くて……」
「ふーん。そう。
……ま、あんたが変なこと考えてないなら、別にいいけど」
「変なことって……」
「……バカ。そういうの、顔に出てるのよ」
つかさは缶をもう一口飲みながら、そっぽを向いた。
でもその耳が、ほんのり赤く染まっているのを俺は見逃さなかった。




