6 初任務
表にいた部下と合流する。合流した闇オーラ全開の部下と筋肉自慢の部下の二人は、松雪に出逢ってしまった時に一緒にいた二人である。なんならこの五人であの時いたメンツは全員揃った。松雪を除いたこの四人で毎回任務に当たってる訳では無いが、三人は白虎組と呼ばれる最前線チームのメンバーだ。目印に白虎のバッジを胸元につけている。メンバーは残り二名ほどで近いうちに松雪と直接合わせる予定だ。
この二人は一部を見ていた分まだ理解があるタイプなので、今回はこの二人をつけることにした。今は下手に他の人間をつけない方がいい。まぁ、白虎組は白のやらかしからだと知ってるし、懐が深い人間ばかりなので大丈夫だろうが。
雲雀が師匠で白が教育係な以上、松雪の配属は必然的に白虎組になる。歓迎会として今度みんなでご飯でもいきたいと考えているが、いつになるのかは分からない。ちなみに松雪はここが最前線チームだなんて知らないし、この二人が同じ配属先だなんて知らない。
筋肉バカこと安城と闇オーラ全開男こと小峯は、白と会話した後松雪を確認すると挨拶しようと松雪に近づく
「松雪だな!安城だ!最初の挨拶、勢いあって良かったな!」
「あ……小峯…よろしく」
安城はもちろんだが、オドオドしながら友好的な態度をとる小峯に松雪はホッとしたような態度を見せた。
今は同じ組織でも味方の人間が少ないため、安心できる人間が増えるのは大切であろう。
二人は一言話すと安城が後ろに、小峯が前についた。小峯の隣を白、真ん中を二人が歩く。幹部の白の護衛かつ、初めての松雪の護衛だ。
必要以上に話さないのも、松雪に今あまり気を遣わせないためという配慮である。安城がそんな配慮できる訳ないので、グイグイ行こうとしたのを小峯が首根っこ引っ張った結果ではあるが、小峯はオドオドするが身内には意外とグイグイいけるタイプだ。
「Junkが出やすい場所とかあるの?」
松雪の質問に、白は出やすい場所かと考える。
「出現場所は特にないかな。地縛霊みたいにその場に留まるやつもいれば、動き回るやつもいるし。強いていうなら人が少ない場所は多いかも…?」
Junkの存在があまり表向きにならないのも、そもそもJunkが人前にあまりでないという理由もある。勿論他にも事前に規制をかけたり、人が居ないところに追い込んだり、人が少ない夜に行動したり、万が一にも見られてしまった場合は記憶消去したりするが。
「今回もそんなとこ?」
「うん、今回は廃墟。」
取り壊し予定の古い家だ。住んでいた人間が高齢で亡くなったが、その後誰も土地を引き取ろうとせず、ずるずる長い期間取り壊しもせず放置された状態であったらしい。事件があった香りはしないが、そんな廃墟を夜に行くだなんて他にも何か出そうだ。何回も行っている白虎組のメンバーですら、他の何かを怖いと感じる子もいるのだから松雪も怖いと感じても可笑しくないだろう。
「ワクワクだね!」
しかし返ってきたのは逆の言葉。
「おっ、なんだ。松雪はそういう怖い系好きなのか!」
隣にいた雲雀が聞けば、大きく頷く
「ホラー映画とか、ホラゲとかめっちゃ好き」
特に!と語りだした松雪を雲雀がおうおう、と適当に返事する。
「俺にはピッタリだけどね…そういう所……」
「幽霊なんて怖くないだろ!俺の拳は誰にも負けん!」
白は四人の反応を見ながら、あはーみんな個性強いと微笑む。白は怖いか怖くないかで言われると、怖いと答えるがまだ見たことがない分信じてないと自分に言い聞かせてる。
騒がしく話しているといつの間にか、予定の廃墟の前まで着いていた。ボロボロで床崩落の可能性が少し怖い。
「ヨシ!やってやるぜ!」
手のひらと拳を合わせ、ワクワクし始めた安城を待てと三人で止める。
「な、なんだよ」
止められると思っていなかった安城は驚いた顔をして、三人を見る。松雪もどういうことだ?と三人を見る。その三人はというと当たり前だろ言わんばかりの顔を安城に向けていた。
「いや、お前がここで暴れたら建物崩れちゃうでしょ」
「…考えろ、バカ」
「安城くんは、ここで見張っておいて欲しいなー」
なんでだよーとショックを受け、いじけ始めた安城を置いて四人で建物に入る。埃臭く薄暗い建物は、まさに廃墟である。暗さを解消するため、白が周りにバレないくらいの明るさで光を灯す。その明るさを頼りに四人は警戒しながら進む。
三人は退治に慣れていているからこそ、油断すると事故が起こると知っている。いつでも警戒は怠らない。
薄暗い建物の中を物音一つ逃さないよう、静かに進む。瓦礫だらけ、草が生えている。本当に何か出そうで、白はギュッと拳を握る。信じてないようが怖いものは怖い。
少し進むとガサッと奥から音がした。三人はすぐに静かに戦闘態勢に入る。松雪緊張した面持ちで先を見つめる。
白が音がした方に光を向ける。光に気がついた何かは、不気味な声を出しながら光の下に現れた。
「ひっ」
姿を現した何かに松雪は思わず短い悲鳴を上げる。人間のような体をしているが、目が真っ黒な口がでかい、子供くらいの大きさの化け物。これがJunkだ。慣れてないと幽霊だと勘違いしても可笑しくない醜い見た目をしている。前、松雪はJunkの討伐に遭遇してしまったとき、暗かった上に白の方に注目していたせいでJunkの姿は全く見えてなかった。だからこそ初めてJunkの姿をしっかり捉えて、怖気付いてしまった。
「離れんなよ、弟子」
怖気付いた松雪に気づいたか、雲雀が隣で声をかける。頼りになる声に松雪が、うんと頷く。
「まぁとは言え、雑魚だから心配はないけどな」
アイツらだし、と雲雀は前の二人を見る。その二人は余裕あり気にJunkの前に立っている。
「せっかくだし、少し見せてあげようか」
「…無駄な体力なんだけど」
白と小峯が言い合うと、白は指を鳴らした。カッコつけにも見えるその行為の後、Junkの周りに光の檻が現れた。凄い、と松雪が零す。
「俺は、派手嫌いなんだけど…」
そのJunkに向かい小峯がグチグチ言いながら手を振りかざす。その瞬間、紫の液体がJunkに降りかかる。紫の液体は光の檻を突破することなく、光の檻にかかると消える。全ての液体が消えてしまいそうになったが、全てが消える前にJunkが醜い声を出して苦しみ出す。Junkが出す声高く苦しむ声に、松雪は耳を抑え、他三人も顔を歪める。しばらく苦しむと毒と共に液体のように溶けて消えていった。
「討伐完了」
光の檻を消して、白が松雪達がいる後ろを振り向く。
「怪我とか、気持ち悪くなったりしてない?」
白達に守ってもらっていたため、怪我一つない松雪はこくりと頷く。
「そっか、ならよかった」
白はにこりと笑う。そんないつも通りの白の様子に先程感じていた恐怖心が消えていった。
小峯がその様子を興味なさげに見て、もういいでしょとさっさと出ようと歩き出し、その後ろを三人でついて行く。
「今回は廃墟で良かったなー」
「だね、一番楽だ」
ボロボロの周りを見ながら雲雀と白が話してる内容を、不思議に思い松雪は疑問を尋ねる。
「廃墟とか危なそうなのに?」
床が崩れてしまうかもしれないし、変な人が居るかもしれない、それに幽霊の類が出ても可笑しくない。何も楽そうには思えないが
「許可取りとかがね…」
白が困ったように言ったのに対し、なるほどと松雪は直ぐに納得する。
廃墟ならば立ち入り許可が容易いだろうし、もし壊してしまっても気付かれにくい、だがここがもしまだ使われている施設だとしよう。立ち入り許可にはちゃんとした理由をつけなくてはいけないし、物を壊してしまった場合怪しまれるし弁償が発生する。人気がない路地でも弁償は変わらないし、人に見つかる恐れもある。そう考えると廃墟は気味が悪い以外はいい所なのだ。
「許可取りってどうやってるの?」
今日も許可を取っている様子はなかったつまり、事前に許可を取っていたことになる。
「そういう対応組がいるんだよ」
白虎組のようにその班にはその班の名前があり、活動している。Junkの出現場所を特定する組、後処理組、情報管理組など様々存在する。
組から組の異動はできるが、本人の希望がないとしないし、白虎組への加入は松雪で初めてだ。
「組を超えた活動もあるけどね」
それこそ白と白の相棒は組こそ違うが一緒に行動することは多い。今こそ少ないが昔は良く相棒として任務に向かった。今でも任務のレベルが大きかったり、白と白の相棒は幹部なため希望すれば二人でも又は部下を連れて任務に向かわせて貰える。
白の相棒は今でもよく二人で任務に行きたがり、月一レベルで一緒に任務に当たっている。
「他にも色んな任務はあるけど、僕らの基本任務はこんな感じかな。凄かったでしょ」
建物の外に出て月の光を浴びた白がまだ建物にいる松雪を振り返って言う。その姿がなんだか綺麗で、見惚れてしまった。
「はよ行くぞー」
止まる松雪の背を押し、雲雀が前に出る。白は気にせず外で門番していた安城と小峯と話している。その様子をみて松雪も外に足を出した。四人でアジトへの帰路に着きながら白は静かに考える。
白としては、まず今回の任務の目標は成功と言える。勿論、Junkを討伐することが第一の目標だが今回の目標はもう一つ、松雪にJunkの存在を見せる、という目標があった。
確かに松雪は怖気付いていたが、目はまっすぐJunkを見ていて逃げ出すことも、腰を抜かすこともなかった。恐怖心もこの先何度も任務に連れて行けば慣れるだろう。要望も聞かず、超能力もないのに最前線に立たすのはなんだか騙す行為のようで気が引けていたが、松雪の姿勢はとても前向きであった。きっと今更情報隊に行けと行っても嫌がるだろうと思うほどだ。
こんなにも主人公属性の子は、朧ノ巣には存在しない。朧ノ巣にも光属性は存在するがこんなにも主人公属性かつ光属性の人間は久しぶりに見た。
これから先の成長が気になる。教育係として雲雀に任してばかりいないで、これから鍛えていこうかな、と白はチラッと松雪を見るのであった。