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5 制服


松雪が皆の前で挨拶してから、はや一週間が経とうとしていた。白はその一週間、多くの批判と質問を受けながら第三修練場で、雲雀と松雪の修行を見るのが日課になっていた。たまに自分も参加しながら、二人を見るのが好きになってしまっていたのだ。自分が死ぬほど修行していた頃と比べると、生温いと言われてしまうような修行。


師匠もいなくガムシャラに修行していた自分と重ねるには違いすぎる。昔のその頃は思い出したくもないくらい嫌いだ。だからこそ、違うからこそ、松雪の成長を見るのが好きなのかもしれない。


今日も白は任務の合間に松雪の修行を見学して来ていた。師匠ではないにしろ白は直属の先輩で、教育係である。見守るのもまた一つの仕事だ。それに加え、今日は松雪にプレゼントを持ってきた。


休憩に入ったのを見計らい、プレゼントが入った紙袋を手に松雪に近づき、疲れた様子でぐったりと倒れている松雪の横に紙袋を置いた。松雪はそれに気がつくと、ゆっくりと白の方を見た。


「お疲れ様だね、松雪くん」


「白くん…」


「毎日毎日、頑張るね」


白が松雪の努力を認めてやると、松雪は心底嬉しそうな顔をした。


「俺から見ればまだまだ基礎も出来てないけどな!」


しかし次の雲雀の言葉でガックリと項垂れる。まだまだな事は否定出来ないので、苦笑いを浮かべておく。伸びしろしかないということにしておこう。大丈夫だよ、と白が慰めてやれば松雪は白くん優しすぎ好きになっちゃいそうと返してきたので、余裕がありそうだ。


松雪はいじける視界の端で紙袋が見えたのか、なにこれ?と白に質問する。


「これはね。頑張る松雪くんへのプレゼント」


「えっ!」


プレゼントと聞いて松雪はガバッと起き上がる。そのまま紙袋の方へ手を伸ばすと、キラキラした眼で白を見た。


「見てもいい?」


勿論、と返事をしてやればワクワクした様子でガサゴソと紙袋の中身が見えるように開いた。中身を見れば、食べ物といったものではなく黒で赤のラインが入った布が見えた。恐る恐るといったように手を伸ばし布に触れる。布は柔らかく肌触りがとてもいい、こだわられているのがよく分かる。


「広げてみて」


白がそういえば松雪は立ち上がり布が土につかないように、布を広げた。布を広げる前から分かり始めていたが、布の正体は服と帽子であった。しかもおそらく曨ノ巣の制服。


「これって…」


黒ベースの生地に赤が入っており、和風要素が織り込まれている軍服のようなこの制服は、挨拶させられた時に100人以上が来ていた服であり、白と雲雀に出逢った時、二人が着ていた服でもあった。


100人以上の軍服集団の前でジャージだった時は制服欲しい!と思ったものだがまだ仮入隊みたいなもの仕方がないと諦めていた。しかし、この制服が渡されたことで加入した事実を認めて貰えたようで、嬉しさで体が震えた。実際認められた印ではなく、とりあえず渡しただけであっても自分の中ではそうやって解釈したい。


「着てみてもいい?」


「いいよ」


許可が出ると松雪は早速ワクワクしながら服を着替える。そんな松雪の様子をそのワクワクする気持ちよく分かると思いながら、二人で微笑ましく見る。白は今でも初めて制服の袖に腕を通した時の気持ちを思い出せる。制服というものは、その組織の一員という証であると共に自分達へのモチベーションにもなってくる、とても重要なものだ。


松雪は着てみると、興奮した様子で自分の身体を見る。隅から隅までじっくり観察すると最後に2人に視線を向け、どう?!と聞いてくる


「よく似合ってるよ」


「さすが俺の弟子」


俺の弟子っていうの自分の中で流行らせてないかい?と白は考えながらスルーした。


一通り自分の様子を観察した松雪はふと、気がついた。


「白くんの制服、マントみたいなのついてなかった?」


松雪が最初に見た時、確かに制服に白のマントのような物を着ていた。しかし松雪の制服には付いていない。それどころか確か雲雀もその他の部下達もそんな物つけていなかった。そこから察するにおそらくそれは


「幹部の印みたいなもの?」


「正解」


白がいい笑顔で答えるとやっぱりと松雪は納得する。


「正しくはケープだけどね。幹部によってケープの色は違うんだ、僕は苗字の漢字に白も入ってるし白のケープ」


単純だよね、と白は微笑む。だがそんな白に高級感溢れる白はとても似合うものだ。雲雀もそれは感じてるらしく


「めっちゃ似合うから腹立つよなー」


と雲雀は言葉とは裏腹に、大して腹を立てない様子で笑う。師匠も似合ってたよ、と松雪が言うとだろうと雲雀は当たり前だ、と頷く。ちなみに雲雀は松雪に自分の事を師匠と呼ばせている。


「二人は着ないの?」


見たいな、とアピールすればまぁ着る予定ではあったし、と二人は準備しに裏に行く。俺はここで着替えたのに、と思ったが言うのを我慢した。


しばらく経つと、着替えた二人が登場した。制服を着ている二人はやはり似合っているし、とってもかっこいい。


白が来ている白のケープは、白に似合いてすぎていて羨ましい程だ。


「本当は幹部ってバレないように、服統一しなくちゃいけないんだろうけど、みんなの強い要望で」


「幹部は、幹部感があってこそだろ」


みんなというのは、構成員と一部の幹部だ。幹部と言っても上下関係はあまりつくりたくない、というのがこの組織の想いではあるが、それはそれこれはこれらしい。


「俺はこの制服、二番目に好きだな」


「僕は一番好きかも」


一番目?二番目?と松雪が聞き返す。その言い方はまるでこの制服が何着目かのようだ。


「この制服、三着目なんだ」


「度々変わんだよ」


「なんで変わるの?」


変えなくても同じデザインで同じのをつくればいいのにと思う気持ちは、白にも分かる。でもそういうのじゃないらしい


「人の好みは年々変わるだろ」


だから変わるのは当たり前だというようにいう雲雀。今回流行ったのは和風であった。松雪は確かにそうだがと困惑する。制服ってそんなコロコロ変わるものだろうか。というかそんなデザイン、簡単に考えられるものだろうか。


「誰がデザイン考えてるの?」


デザイン担当でもいてその人が張り切っているのだろうか、と考え松雪は質問する。しかしデザイン担当がいる訳ではない。


「デザインは書きたい人が書いて、それを匿名で張り出して投票。多いのに決まる。」


学校か!それでいいのか?!と松雪は思わずツッコんだ。まぁ、と白は否定せずに、みんな同い年だからと返す。松雪の想像以上に組織間の仲が良さそうだ。


「布も特殊でジャージよりも柔らかく軽い上に耐久性、耐熱性が高いんだ。」


「みんなで悩ましげに考えたな、どうしてもジャージよりも性能良くならないから」


ジャージも性能いいんだけどな、と雲雀が言う。ジャージの性能は制服よりも早めに簡単に開発されており、軽いし肌触りも良かった。


「ならジャージでも良かったんじゃ」


当然そんな疑問も浮かぶ訳だが


「それじゃ、やる気出ないだろ」


何言ってんだ?と純粋な疑問を持ち雲雀は頭を傾ける。確かにそうだが、それだけで?と松雪は思ってしまう。明らかにジャージの方がコストも安いだろう。


「みんな形から入りたいタイプなんだよ。」


自分も人の事言えないけどと思いながら白は言う。アジトや組織の名前や服等など、まずは形から入っている、男は幾つでも厨二病が心に宿っているものだ。ちなみに組織には女子もおり、服やアジトなどで男女で結構揉めたのは裏話だ。今回の制服は女子発案のものである。


松雪はとりあえず納得した、同じ男として最初から理解は出来ていた。納得出来ていなかっただけで


白はようやく納得出来た様子の松雪を見ると、時間を確認してヨシと声を上げる。


「予約時間もそろそろ終わりだね」


「予約時間?」


そんな物あったのか?と松雪は聞き返す。


「うん、普段はオープンだからね。予約して専用に使ってるんだ」


基本修練所はいつでも誰でも使えるようになっている。その中でも専用で使いたい場合、専用予約制度があるのだが、普段は下手に修練所で他の構成員と合わないようにそれを利用している。今日はこの後珍しく予約が入っていたので、いつもより早い切り上げになる。


白から説明を受けた松雪は、じゃあ着替えなくちゃと脱ごうとするが白から待ったが入る。


「この後、Junkが発生したとされてる場所に行くんだけど一緒に来ない?」


「えっ!」


Junkといえば超能力をもった敵だ。松雪は最初の時に見た化け物を思い浮かべる。それを倒すために鍛えていたとはいえ、いきなり実践はあまりにもハードルが高すぎる。


しかし白は首を振る。


「戦えとは言わないよ。今回のJunkは特に強力との報告も受けてないし、ひばくんと一緒に後方に待機してようか。いきなりJunkを倒せはハードルが高いからまずは見て慣れようか。」


確かに、あの一度見ただけの化け物をいきなり実践はあまりにもキツすぎる。見て慣れること、観察することは自分の成長にも繋がってくる。松雪は分かったと頷く。


「表に部下二人をまたせてる。行こうか」

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