4 挨拶
日が落ちてきた、修練場が暗くなり鍛錬ついでと照明スイッチまで歩くのがめんどくさいので、白は天井に能力で光を灯した。あたりは一気に明るくなり、素振りをしていた松雪が天井を見上げる。
眩しい光は何処か暖かく、闇を照らす光のようだ。
「いいな」
松雪が天井を見ながら、ぽつりとこぼす。松雪へ二人の視線が集まる。
「やっぱりかっこいいよ、羨ましい。特殊能力なんて」
羨ましい、そんな言葉に一瞬暗くなる二人の顔を松雪は気付けていなかった。
「そんな綺麗なもんじゃないよ。これは」
「綺麗だし、凄いよ!」
そういう意味じゃないんだけどな、と聞こえないくらいの声で白は呟いた。
「雲雀くんは能力なにかあるの?」
キラキラした眼で雲雀を見上げると、雲雀は自分のポッケから競技用ヨーヨーを取りだした。
「ヨーヨー?」
「まぁ見てなよ」
雲雀がヨーヨーの糸を指に引っ掛けを上に投げる。するとヨーヨーは重力を無視したように自由自在に動き始めた。なんだこれ、と松雪が興奮していると、しばらく魅せるように自由自在に動き回っていたヨーヨーは、松雪の足元をクルクルと周り始めた。まるで犬のようで無機物なのにどこか可愛らしい。
わーと見ていた松雪だったが、ヨーヨーはいつの間にか自分の足を紐でグルグルに巻き付けていた。
「えっ」
松雪が気づいた瞬間、ヨーヨーは雲雀の元へ勢いよく戻り、足に紐が巻きついていた松雪は転んで引き摺られた。
「いだっ」
雲雀の下まで引き摺られた松雪は下から雲雀を覗きこむ形になる。雲雀はしてやったりと、イタズラっ子のような表情をしており、直ぐにイタズラされたことに気がついた。
ヨーヨーの糸は、松雪の足から解け雲雀の手の中に戻った。雲雀は松雪へ手を伸ばし、松雪は手を取り立ち上がった。服についた土埃を払うが随分服が汚れてしまった。
「ひばくんの能力は、微操術式っていうものなんだ。つまりサイコキネシスだね」
「サイコキネシス!!」
興奮気味に雲雀を見るが雲雀は苦笑を浮かべる。
「俺は白とは違って制限があるんだ、1.5キロまでしか操作できない。でもいいんだ」
雲雀は重量に任せ下にヨーヨーをはなす。直ぐにヨーヨーは雲雀の手の中に戻ってくる。
「俺はこれで戦えるから」
二カッと笑う雲雀へ松雪が追求することはなかった。雲雀は、よし!と手を叩く。
「初日で詰め込みすぎも良くないし、これくらいにしてやるか!」
終わりという言葉に松雪が目を輝かせる。自分で入りたいとはいったが、やはりキツイ練習は嫌である。雲雀や白からしたらきつい練習でもなんでないかもしれないが、全部が初めてな松雪は大変疲れる。
帰れる、と感動しかけたところで悪魔のような一言が白から入る。
「特訓が終わった所でだけど、次での定例の挨拶考えようか」
「そうじゃん!」
ボスの玲から昨日次の定例で挨拶するように言われていたのだ、色々と驚きが連続していて忘れてしまっていた。いや人前で話すなんて気が重い、忘れたかったのかもしれない。
白としてはこの挨拶はとても重要視している、この挨拶が上手くいけば、白に寄せられる批判が雀の涙くらい減るだろう。逆に失敗すればとてつもない批判の嵐になり、しばらくは組織に顔を出さなくなる、
「と言ってもだなー」
雲雀はゴテンと大の字に地面に転がる。
「批判組が多いからどうなるのか不安だな」
「別にいいんじゃない派の雲雀が珍しいレベルだもんね」
「俺は最初から見てたもんな」
二人が悩ましそうに話すと松雪が顔を青くさせる。
「あの子の反応を見る限り分かってたつもりだったけど、そんなやばいの…」
あの子とは昨日いた悠だろう。
「組織創られた時から追加された人なんていないからね」
「まさに松雪は前代未聞!」
なにも嬉しくない前代未聞である。怖いよーと頭を抱える松雪に二人が顔を見合わせて笑う。
「大丈夫、いきなり襲いかかるような連中じゃないし、何かあっても僕が君を守ってあげるから」
「この俺が師匠なんだぞ!師匠を信じろ、アドバイスできるとしたら舐めらるなよ!」
出会ってまだ間もないというのにこの二人がこんなにもしてくれるのが嬉しくて、松雪は涙ぐみそうになる。真っ直ぐな優しさは松雪の心に深くしみた。
「とりあえず当たり障りのない意気込みを言えばいいよ。名前と特技?あと意気込み?かな??」
白に疑問を投げかけられた雲雀は、えーと体を起き上がらせる。
「わかんないけどいいんじゃね?」
うーん、と悩ましそうにしながら白は松雪をみる。
「松雪くん、まず練習として特技と意気込み言ってみて」
松雪はいきなりそんな思いつかないよ、と思いながら頭を捻って口を開いた。
やばそうなんだけど!!!
松雪は100人以上いる集会場で100人以上の視線を浴びながら叫びそうになった。
白と雲雀と話し合ったのは昨日。昨日、二人に自分の特技と意気込みを言った結果、いいんじゃない?との評価を貰ったのでそのまま言ったのだが、視線が凄く鋭い。
いや皆の前に立った時から殺気すら飛んであるであろう視線でちびりそうだったが、意気込み言っても何も変わってない。
雲雀と白に助けを求めたく、幹部として横の方にいるだろう白に視線を向けたいが状況が悪化しそうで下手出来ない。雲雀に至っては何処にいるのか分からない。
もう帰らせてほしいのに、ボスの玲はどうした?他にないのか?と言った視線を向けてくる。他に何を言えというのか。
松雪は100人以上の殺気を浴びながら、拳をギュッと強く握り覚悟を決めたように真っ直ぐ前を向いた。
白は心配そうに松雪を見つめる。ボスである玲に呼ばれるまで裏で待っていた松雪は、集会場に入った瞬間、あまりの視線に怯えた表情を見せた。しかし雲雀のアドバイスを守るべく、唇をキュッとして怯えた表情を隠した。
皆の前で自己紹介をしたあとも変わらない視線に対して、松雪は不安そうな顔をした。そんな顔が見てられず、もう許して上げなよ、と玲を見たが玲は静かに松雪に次の言葉を求めるように黙っていた。
「どうすんの」
隣からこっそり話しかけてきたのは雲雀。師匠枠として特別に今回は横に一緒に立っていた。雲雀も不安そうな顔をしている。
「やっぱり助けにいこうか。僕の失態から始まったことだし」
ひばくんは待っててと前に行こうとしたら、松雪が口を開いた。
「文句があれば受けて立ちます!なぜなら俺の今の目標は、皆に認められることだからです!能力がない武器も使えないこんな俺を、皆に仲間だと信頼してもらえるのが目標です!俺がここの組織に加入したいと言ったので俺は俺の信念を貫き通します!!」
叫ぶように大声で言った松雪は息をきらし、肩で大きく呼吸をする。
皆驚いたように眼を丸くさせる。玲はそんな様子を満足そうに見るとマイクを口に構えた。
「て、ことでこの組織の成長には変化点が必要だというのが僕らの考え方だ。ペット追加だと思ってくれて構わないから皆よろしくするように」
もう裏戻っていいよ、と言われた松雪は。マイクあるんかい!というツッコミとやっぱりペット?!というツッコミを飲み込んで戻る。
「凄いな」
「白?」
そんな様子を見て、ポツリと言葉をこぼした白を雲雀が不思議そうに顔を覗く
白はまるで眩し物をみたかのように眼を細めていた。
「松雪くんは本当に光のように眩しいね。まるで物語の主人公のようだ」
ぼんやりとしている白に再度雲雀は声をかける。白はハッとして雲雀を見ると、ぱちぱちと目を瞬かせた。
「…えっと、とりあえず裏行こっか」
白の言葉に雲雀はこくんと大きく頷き、静かに会場を後にする。
裏に行くとアワアワしている松雪を発見した。二人を発見するとビュッと飛んできた。
「ど、どうしよ、やっちゃった、やらかしちゃった、ごめん」
あまりの取り乱しように二人でぷッと吹き出す。先程の勢いとは勢いで言い切った男にはとてもじゃないが見えない。
「大丈夫、よかったよ」
「俺の弟子ならやると思ってたぞ!」
気にした様子のない二人のホッと息を吐く松雪。
「なんだけど、文句は星の数ほど来るだろうから。今のうちに退散しようか」
白の言葉に松雪は苦い顔をしながらこくりと頷く
「さっき言い切った手間逃げるようで気が引けるし、アジト内に入るの2回目だから見学したいけどしかたな ないね」
「迷惑葬るのは俺らの方だからな」
言いづらいことをバシッという雲雀に白が軽く咎める。この後批判と質問の嵐を受けることになるのは分かりきっていたが、こんなに集まってる状態で囲まれるといつ解放されるか分かったもんじゃない。なら後日個人できた方が数倍マシだ。ドーベルの通知はすごいことになるだろうが
「帰ろっか」
白は出口に向かって歩きだす。その後ろを周りの景色に興味津々な松雪と雲雀が着いてくる。
「てか、白の相棒来なかったな」
歩きながら雲雀が白にそう言うと、あーと気まずそうな声を出す。
「あの子は、絶対認ないから行く意味ないってどっか行った。」
そいつらしくて雲雀はあははと笑う。松雪は相棒か、と考えたあとハッと気が付く
「そうだ!俺緊張しすぎて他の幹部の人とか見えてない!!」
クラスメイトだという男も誰だか分からずじまいだ。なんてことだ、教室で出会って挨拶もしない新入構成員なんて処分されるかもしれない。
そんな深刻に考える松雪に大丈夫、大丈夫。と白は軽く返す
「緊張しすぎて周り全然見えてないの気づいてたから大丈夫だよ。」
そのうち誰か分かるよという白に松雪は分かりやすくほっとする。
「てか暗くない、このアジト」
さっきからどこ見ても黒ばっかりである。
「だって裏組織ってこんな感じでしょ」
雲雀が至って普通のように応えると、え?と松雪から声が出る。ん?と雲雀が応える。
「それだけの理由…?」
「他に何か必要?裏組織だよ」
かっこいいだろ、という雲雀にそうだけどと松雪から困惑したような声が出る。白はそんな二人を見て松雪の気持ちをを汲む。
「僕らとしても創るとき裏組織がなんなのかあんまり理解出来てなかったから、子供ながらの知識で創ったんだよね。」
「なる…ほど」
納得いったような腑に落ちないような顔で松雪は頷く。建物を創った頃はだいぶ幼かったからな、と白は当時を思い出す。小さいところから始まり、規模はどんどんでかくなった。人は増えたりしてないのに組織がでかくなったと感じるのは、成長した証だろうか
出口まで来ると、白のドーベルに幹部用に設定してる通知音が鳴った。見ると相棒からでメールの内容にクスッと笑ってしまった。
『待つ』
主語もない言葉は意味不明なように感じるが、何故だか分かってしまうのは長い付き合いだならだろうか。いきなり笑った白を二人が見る。
「ごめん、うちの子から呼び出しされた」
あぁという顔をする雲雀に対し、子供?!と驚く松雪。
「白の相棒」
「呼べば来ると思ってんだから」
それじゃあ行くね。と出口に向けてた体を反転させる
「ひばくん、ちゃんと送り届けてね」
「合点承知之助!」
雲雀に任せると白は自分を待っているだろう相棒の元へ足を向けた。