第14話 力ある者はその力を正しく使わないといけないんだ
「……レイン様。勝利しました。私頑張りました」
シエルが嬉しそうな表情で俺の方へとやって来る。
……そして、ユーリは決闘場の中央の地面に倒れている。
「凄い魔力だったわね。あの娘が編入試験をパスしたって娘なの? 知らない娘ね」
「あんな。スゲー娘が今まで何で無名だったんだ? なぁ、レイン。何か知ってるんだろう?」
アレイス学園の入学時から同じクラスのセイラとアルストが俺に聞いてくる。
「そんな事より今はやる事がある! 質問は後でにしてくれ」
俺はそう告げると彼女の元へと急いで走り出した。
「……レイン様。私やりました」
シエルが嬉しそうに俺へと近づく。
「シエル……そうか。それは良かったな。そこを退いてくれ。今は一刻を争うんだ」
「……え? レイン様。どうなさったんですか?」
シエルは不思議そうな顔で俺を見つめる。
「さっきの君の攻撃でユーリが瀕死になったのが分からなかったのか?……君はもう少し加減を覚えた方が良い」
俺はシエルに向かって少し苛立たしげにそう告げるとユーリを抱き抱えた。
「……レイン様?」
無自覚な強者程、怖い者はいないのではないだろうかと俺は常日頃考えている。
シエル・バレンタインは魔竜討伐で集められたテレンシア王国が誇る強者の1人だ。
俺も最近知った事だが。
シエルは俺の母である『神天』のアリシア・アッシュクラフトから直々に教えを長年受けて聖女になった。
これは世界最高峰の力を持つ母にその力を認められたという事。ならばその保持している強さも尋常ではないのだろう。
そんな相手とユーリが闘えばユーリが負けるのは試合をする前から分かっているものばかりだと思っていた。
「だが現実は全く加減も制御せず。力を見せびらかすように闘っただけだったな。大丈夫か。ユーリ……今、身体を回復させやる。『快復』」
「レイン──私、負けてしまいました……貴方を取られたくなくて……」
「話は後でにしてくれ。俺の系統の回復魔法は集中力がいるからな」
「……レイン」
ユーリは弱々しい声で俺の名前を呼んだ。
さっきのシエルの大技をまともに喰らったのだろう。全身が傷だらけだ。
「……あ、あのレイン様。私は……レイン様と一緒に居たくて。私は…その…」
気まずそうに俺の後ろに佇んでいる。
「シエル」
俺は普段よりも強めの口調でシエルの名前を呼ぶ。
「……は、はい。なんでしょうか。レイン様」
俺が怯えているのだろうか? 普段の淡々とした態度が鳴りを潜めている。
「俺達はたまたま若くして力を手に入れただけに過ぎないんだ」
「……たまたま力を手に入れたですか?」
「あぁ、ほんの少しの才能と恵まれた環境があっただけの運が良かったのが俺達だ。そして、その力を利用して君はユーリを傷付けた」
「……で、ですが。先に勝負を挑んで来たのはユーリさんの方です」
「君はテレンシア国で選ばれた力ある聖女だ。それに引き替えユーリはまだ学生だ。君位の実力者なら決闘が始まる前から勝負の結果なんて予想出来ていただろう?」
そう。俺はそう思い試合を見守っていた。シエルもちゃんと加減が出来る側だと勝手に思っていたんだ。
だが蓋を開けてみれば自身の力を誇示する様な闘い方でユーリが瀕死になるまでケガをさせてしまった。
「……私はその……レイン様に……褒めて欲しくて……あの……」
俺に詰められて泣き出しそうな顔になるシエルに向かって俺は────
ペチンッ!
「……?! レイン様。なぜ、私のおでこにデコピンを……」
「《力ある者はその力を正しく使わないといけない》母さんの教えだろう? 今度から気をつけるんだ。シエル、俺の二の舞にならないようにな」
「……レイン様の二の舞? あ、あの。それはいったいどういう事でしょうか? 私は……」
「自分の力に酔っていると痛い目に合うと忠告しただけだ。簡単に言えば自分の力をもっと上手く使えと言いたかっただけさ。君ならそれが出来るだろう?」
「……自分の力をもっと上手く……」
「それが今後のシエルの課題だな。さて慣れない説教も終わりにして教室へと向かおう。威圧的に怒ってしまって済まなかった。シエル」
俺はシエルに近付くと右肩に右手を置いて優しく微笑んだ。
「……レイン様。は、はい。私も今後は自身の力の使い方について良く考えて振るっていきます。」
「そうか……君なら出来るさ。ユーリもそろそろ起きろ。身体は完全に治っているんだからな。『暴浮』」
完全回復させたユーリを決闘場の宙へと浮かせた。
「キャアアア!! 何ですかこれ? なんで私が宙に? それに身体の痛みも治ってる?」
「……瀕死の筈だったユーリさんがあんなにお元気に? レイン様。これは?」
「『稀血』の効果だな。後でユーリにも謝っておいてくれ。シエル、ユーリは君の学園での初めての友達になるんだからな」
「……ユーリさんが私のお友達に?」
「キャアアアアア!! 落ちちゃいますうぅぅ───」
「大丈夫だ問題ない! よっと!」
「──アァァ!! キャウ!」
空中から落ちて来たユーリを優しくお姫様抱っこで受け止めた。
「ユーリはユーリでもっと上手く力を引き出せよ。才能なら俺よりもあるんだからな。感情的になりすぎるから隙を突かれやすいんだぞ」
「なら貴方が……レ、レインが私に闘い方を教えて下さい! そうすれば。今よりももっと強くなってみせますから」
「ユーリ?」
「つっ!……い、いつまで皆さんが見ている公の場で抱っこしているんですか? 離して下さい! あの人にでもこんな場面を見られた面倒ですし」
「あ、あぁ、済まない」
ユーリは何故か恥ずかしいそうに俺から距離を取った……あの人とは誰の事だろうか?
俺がそんな事を考えている時だった。決闘場の入口付近でパチパチっと大勢の生徒が拍手する音が聴こえて来たのは。
「いやいや。バッチリと見させてもらったよ! 最下位派閥のユーリ・メルト」
「貴方は……ユリウス・バルトロメオ」
「そして、不登校児の旧貴族レイン・アッシュクラフトと……銀青の髪とその美しくも整った顔立ちにして、先程の決闘での強さ。君こそが僕のフィアンセにして高等部第一派閥であるユリウス派閥に資格がある! さぁ、そんな底辺達と一緒に居るよりも僕と一緒に語らい会おうじゃないか。銀青の姫」
などとなが台詞を言うとユリウス・バルトロメオはシエルの前まで近付き、右手を差し出したが。
「……必要ありません。私はレイン様の新妻なので結構です。近寄らないで下さい。キザ男さん」
「はぁ?!────はぁああ?!!」
無表情のままユリウス・バルトロメオにそう言い放った。