第13話 ステゴロノエルさん
《8年前 レイン7才》
「ホホホ! 実技も筆記も満点とな? 流石、ワシが見込んだ男の子じゃのう」
「お爺様。この子がお爺様の愛弟子ですか?……そうですか。この子が私を抜いて学年一位に」
「でも首席は辞退します。僕はトルギス先生に魔法を教えてもらう為にここにやって来たのですから」
「ホホホ。良いじゃろう。良いじゃろう。もともとスルトとアリシアには無理を言ってワシの弟子になってもらったしの…」
「そんな無責任な事は許されません! 貴方は私に勝ったんですから。責務を果たしなさい」
「う……ユーリや。どうしたのじゃ?」
「トルギス先生。この子は誰ですか?」
「ホホホ。ワシの孫でのう。数入る孫達の中でも特に優秀で。レインに次いで今年のアレイス学園初等部の次席じゃな」
「トルギス先生のお孫さん?」
「……貴女。私の事を全く知らないのですか?」
「あぁ、知らない。なんたってそんなの覚えていられない程こっちは忙しいんだ。竜に猫に夢魔の作った組織とか色々とメチャクチャに……つうか7才の僕にどんだけ背負わせてんだよ。父さんは!!」
「ホホホ。相変わらず。スルトはスパルタの様じゃのう」
「……そんな言い訳どうでもいいです。それよりも私と決闘をして下さい」
「決闘? 何で?」
「勝った方が今年のアレイス学園の初等部代表として学年を引っ張っていきましょう! 簡単な話です。実技や筆記抜き……純粋なお互いの強さでどちらが上か決めるのです」
「ホホホ……これはこれは」
「いや。僕はアレイス学園へ入学する目的はトルギス先生に魔法を教えてもらう為にだな……」
「問答無用です。覚悟して下さい! 『火剣』」
「……僕に魔法を放ったな。『暴風』」
■■■
「ホホホ……これは決闘の遊戯としてはやり過ぎじゃな。レインよ」
「すみません。トルギス先生。今後は加減します」
「よいよい。自分の実力に酔いしれていた孫にとっても良い勉強になったじゃうろうからな。しかし決闘のルールか。ちと考えなければいけないのう」
「……そんな。私の魔法が全部書き消されるなんて」
「君の魔法も凄かったよ。ユーリ」
「……貴方。決闘も強いんですね」
「君も強かったよ。危うくさっきの火の攻撃は喰らいそうになった。それとごめん。君を知らないって言って謝るよ。だから君の……ユーリの事を教えてくれないかな?」
「私の事?」
「うん。君とは仲良くなっていきたいんだ。(友達として)」
「……わ、私と仲良くなっていきたいですか?(それってお付き合いするって事ですよね?)」
トゥンク!
「あぁ!(友達として)」
「わ、分かりました。末長くよろしくお願いします(これから私達どうなっちゃんでしょう!)」
▽
「あれから8年経ってもなんの変化は無く。久しぶりにレインに会えると思って校門で待ち伏せしていたら何で新妻が出来てるんですかあぁ? 『火刃』」
「……それは御愁傷様です。レイン様は私がしっかりと支えていきますのでご安心して下さい。『光盾』」
この『ナリア』と言う世界の魔法は火水雷土風光闇属性の基本の7種類の内の1つを産まれた時に持っています。
そして、自身の『血筋』『才能』『種族』等が影響して独自の魔法を扱える様になるのですが……
「……ユーリさんは《火》と《剣》が合わさった火剣魔法と言ったところでしょうか。『光拳』」
ガキンッ!
「なっ?! 私の剣を両手で掴んだ?」
「極東にあるワコークの技『真剣白刃取り』と言うものです。そして、私は今、両手に魔力を集中させていますので……折る事も容易なのです」
パキンッ!
「嘘? 決闘用のマジックソードがこんなに簡単に折れるなんて……成る程。貴女が聖女というお話はあながち嘘では無いようですね。『火球』」
剣を折ってしまえば。勝負は終わりと思っていましたが。どうやらまだ続く様ですね。
ユーリさんは近接戦闘から遠距離戦闘に切り替え、闘技場の遠方から火球を10個程作り、私へと放って来ます。
「……近接と遠距離どちらもこなせるなんて羨ましいです……私はステゴロと支援魔法しかこなせませんので。『光盾』」
この『光盾』という魔法は数日前にシンシアさんと共に修行し会得した技です。
アリシアお義母さんがレイン様の部屋にかけた結界を突破し、レイン様の寝室へと入る為の技。
(良い! 親友。あの鬼母が造り出した結界をどうにか突破するわよ)
(……はい。ですが私のお師匠様でもあるアリシアお義母さんを鬼母など言わないで下さい。鬼母などと……)
(誰がオニババですって? 2人共)
((……ヒイイ!! アリシアお義母さん?!)アリシアママ?!)
「……あの後、三度目のお仕置き部屋での思いでは思い出したくもありませんね」
「何をさっきからごちゃごちゃと……これで終わりです! 『火流群』」
10個もの火球が螺旋のような動きで私の方へと急接近してきます。
「安心して下さい。闘技場全体には常時、回復魔法がかけられておりますので。直ぐに傷は治ります……痛みは伴いますけど。ギブアップする事をオススメします」
「……ご忠告ありがとうございます。ですがこれ位なら火竜の巣の時と比べたらまだまだ熱くありません。『光盾壁』」
私は決闘場全てを覆う程の光の盾を出現させて、それを決闘場の地面に向けて放ちました。
「私の火球が押し潰され……キャアアア!!」ベチンッ!
「……はい。この『光盾壁』はとても強い技なのですが。難点もあります。それは使用者や近辺に入る方々も押し潰されてしまう事で……フギュゥ」ベチンッ!
「これはシエルの結界か?……押し潰される! 『暴…」
観覧席で見ていたレイン様は余裕で防いでいました。カッコいいです。私は自滅しましたが。
「……ユーリ選手が先に身動きが取れなくなった事を確認。よって勝者を編入生シエル選手とする」
審判役の人工精霊が機械的な口調でそう告げ、私の勝利が決まったでした。