第11話 アレイス学園はとても素敵な所です
《一年前 冒険者ギルド本部》
(トルギス先生。何故、アレイス魔法学園が魔竜討伐のパートナーに選ばれるのですか? 俺はトルギス先生の様な一流の魔法使いになる為に学園に入学したんですよ)
(ホホホ。じゃがお主は神託により勇者に選ばれた。これもアッシュクラフト家の運命と思い受け入れほかなかろう。まぁ、今回の旅はワシも同行するゆえ。旅の道中、ワシ、直々に魔法指導してもらえるなら儲けもんじゃろう?)
(それは……そうですが。ですが俺は剣の腕は)
(一流なんだろう? 知ってるぜ。冒険者の中で最年少で金等級に選ばれた『幸運』さん。オマケに魔法の師が大魔帝とは驚いたね)
(……君は誰だ?)
(俺か? 俺は今回の討伐選抜大会の優勝者。剣士のトール……)
(と付与師のミリアよ。これからよろしくね)
(選抜大会? そんなものが開かれていたのか。全く知らなかった)
(ホホホ。これはなかなか大物を集めて来たのう。レインよ。良かったのう。協力な仲間が集ってくれて……そして、まさかあの聖女もこのパーティーに加わるとは思わなかったわい)
(聖女?……トルギス先生。それはいったい)
ツンツン……
(? 誰だ。何の気配もさせずに俺の背後に回るなんて……)
(初めまして勇者レイン様。私はエリシア聖教から参りましたシエル・バレンタインと申します。ふつつか者で御座いますがこれからの旅路をお許し下さい)
(シエル・バレンタイン……エリシア聖教法王の孫娘の?)
(はい……レイン様。ずっと貴方に付き従える日をお待ちしておりました)
▽
「……夢か」
懐かしい夢を見た。一年前丁度トルギス先生と共に魔竜討伐パーティーの顔合わせに行った時の夢だ。
あれから一年。魔竜は無事倒し、勇者としての地位も返還した。あの後、テレンシア王国からの呼び出しもなく平穏な日々が続いている。
「まぁ、ただ一つ変わった事といえば」
カンカンカンカンっと!部屋の通路側から鍋を叩く音が聴こえ来る。
ガチャッ!
「……カンカンカンカン~! 起きて下さい。レイン様。朝食のお時間です。その後は私と共にアレイス学園へとご一緒に通いましょ………」
シエルがノックをする事も無く俺の部屋へと入って来た。
「あぁ、おはよう。シエル、制服に着替えるから待っててくれ」
「……レイン様が上半身だけ着ていません」
「ん? あっこれか? 昨日の夜は暑かったから上着だけ脱いで寝たんだ……悪い直ぐに服を着るよ」
「しゃ、しゃい……よろしくお願いいたします。それでは私はリビングでレイン様をお待ちしておりますのでこれで……」
バタンッ!
「……顔を赤くして出てって行ってしまった。流石にこの格好はまずかったか」
◇
「……レイン様のお身体見てしまいました。まじまじと。綺麗なお身体……はわわ//// 私ったら何を考えているのでしょうか。ハレンチですね全く。今日からレイン様と共にアレイス魔法学園に向かいますのに……しっかりしないといけません」
◇
ゴーン!ゴーン!ゴーン!
アレイス学園のシンボルである時計塔から鐘の音が学園中に響き渡る。
「時々、単位取得の為に帰って来てはいたが……それでも数ヵ月振りの登校だが。あまり学園は変わっていないんだな」
アレイス学園の男子用の制服を来た。俺と……
「ここがレイン様が幼少の頃から魔法のお習い事をしてきた場所ですか……キラキラしてますね」
女子用の制服を着たシエルが碧眼の綺麗な眼を輝かせながら、アレイス学園のあっちこっちを見ている。
「そんなに物珍しいか? シエル」
「はい。レイン様。とてもとてもキラキラしていて素敵な場所です。流石、レイン様が通う学園ですね」
いつも冷静沈着なシエルが鼻息を荒くさせながら、俺にそう告げた。
「そうか。それは良かっ……」
「レイン・アッシュクラフト。貴方に魔法決闘を申し込む! 尋常に決闘を受理しなさい。このユーリ・メルトのね」
「君は……」
突然、俺の前に決闘を挑む奴が現れた。
◇
俺、レイン・アッシュクラフトは幼少時からアレイス魔法学園に通っていた。
それもこれも『大魔帝』とまで言われた大魔法使いトルギス師匠の元で一流の魔法使いになる為だ。
それが一年前の勇者選定の儀によって魔竜討伐パーティーの一員としてテレンシア王国に師匠と共に召集され、アレイス学園を休学する事になった。
旅の道中はトルギス師匠から直接に魔法の授業を受ける事が出来たが。約一年という休学のせいで魔法学力、魔法模擬戦の修行は疎かになってしまっていた。
□□□
《アレイス学園 正門》
シエル・バレンタインです。レイン様と一緒に今日からアレイス学園に通う者です。
私が以前通っていたキリス学園のような白を基調とした建物とは対照的な、キラキラした場所です。素敵です! 流石、レイン様が通られている学園です。
そして、そんな私達の前に現れたのが金髪の男装でしょうか? 凛とした女性がレイン様に決闘を申し込んできたのです。
「君は……ユーリ! ユーリじゃないか! 久しぶりだな。元気にしていたか?」
「へ? は、はい。レインさんをずっと待っていましたけど……いえ! それよりも決闘。決闘をレイン・アッシュクラフトに申し込む!」
「……レイン様。この御方とはどの様なご関係なのですか? 随分と可愛らしい方ですが」
「ん? ああ、この娘はユーリ・メルト。俺の幼馴染みだ」
「……幼馴染み?」
「ああ、ユーリは凄い娘でな。アレイス学園でも歴代最高の水魔法の使い手なんだ。そして…」
「ちょっと! 何をこそこそ話をしてるんですか? それよりも復学したのなら決闘です! 決闘! そして、どちらが強いかを白黒つけましょう。レイン・アッシュクラフト!」
「超が付く負けず嫌いなんだ」
「……負けず嫌いですか?」
「いつも俺と競い合って、負ける勝つまでああやってずっと決闘を挑んでくるのさ。それよりもユーリ。あそこのモルドカフェで久しぶりにお茶しないか? 君に話たい事が沢山あるんだ」
「へ? レインが私に話たい事ですか? そ、それってまさか?! 告は……」
このユーリ・メルトさんという方。赤面しています。凄く凄く顔が赤いです。
これはあれですね。メスの顔というやつです。それに私がずっとレイン様の隣にいますのに全く気づいておられませんね。
「……レイン様。私もそのカフェという場所に興味があります。御一緒しても宜しいでしょうか?」
「ん? そうだな。シエルの事をユーリに紹介したいし。一緒にモルドカフェに行こう……」
レイン様がそう言いかけた瞬間───
「誰ですか? この女の子は? レイン」
ユーリさんの顔が怒りの形相へと変貌しました。
「誰って。君とやり取りしていた手紙にも書いてただろう。魔竜討伐のパーティーメンバーでエリシア教会から派遣された仲間のシエルだ」
「……シエル・バレンタインと申します。ふつつか者で御座いますがレイン様と共に聖女として魔竜討伐に向かい、レイン様の家に同居し、レイン様と共にアレイス学園に通う事になりました。よろしくお願いいたします」
私はユーリさんに向かって懇切丁寧にこれまでの経緯を説明しました。
「……私、エリシア教会から派遣されてきたのって男性の方々と思ってたんですが! なんで聖女様何ですか? ていうか手紙にそんな事書いてませんでしたよね?」
「ん? 手紙にもちゃんとアリシア教会からの派遣者と書いただろう」
「……ちゃんと聖女とまで記載してほしかったです。ウゥゥ……だからレインを1人で旅に行かせたくなかったんですよ。あっちこっちで出会いを作ってくるんですから」
「ユーリ? 大丈夫か? 突然、泣き始めたと思ったら地面に倒れ込むなんって。制服汚れるぞ」
「キィー! 何ですかその他人事はぁー! こうなったら決闘です! 聖女シエル・バレンタイン様。レインの代わりです。私は貴女に決闘を申し込みます! 覚悟して下さい」
「お、おい! なに勝手に決めて……」
「……畏まりました。お受けしましょう。幼馴染み属性の方など脅威そのものですから」
「貴女……くっ! 成敗! 成敗して上げます!」
「シエルまで何をわけの分からん事を言ってるんだ……復学そうそう何でこうなるんだ?」