自転車でちょっと異世界行ってくるわ
『自転車で駆ける精霊の森はきれいだった』
片田舎で暮らす中学三年生の少年・カケルのお祖父ちゃんは変わり者だった。
『若い頃、異世界に行った事がある』と言い張るのだ。
カケルは幼い頃は目を光らせ聞いていたが、さすがに中学生にもなると冷めて距離を置くようになった。
そんなお祖父ちゃんが亡くなって半年。カケルは遺品の整理をしていると、一台の自転車を発見する。
昼食を買いに自転車で走り、ついでに町をサイクリング。年代物だが乗り心地は抜群。
気づけば普段は来ない山道のトンネルをくぐる。
「ふう、ひんやりしてて気持ち――」
その時だった。空気の匂いが、――湿ったアスファルトの匂いが、大自然の木々の香りに代わるのを感じた。
トンネルを抜け走っているのは、トンネルを入る前とは雰囲気が全く違う森の中。生い茂る雑木林、湧き出る泉の水音、派手な色のキノコ達、野道を横切るリス。後ろを見ればトンネルが岩の塊から口を開けていた。
断言できる。少なくともここは日本ではない!
「おやめくだされ……!」
「へへへ、手荷物全部置いていきやがれ!!」
野道の向こうから声が聞こえる。帽子を深々と被るやたら背の低い少女を、角の生えた巨漢の二人が脅していた。御伽話で見た鬼に酷似していた
「あれは……、追い剥ぎ?」
カケルは鬼達にコンビニで買ったプリン二つを渡すと見逃してくれた。この世界ではどうやらゴチソウらしい。
「あ……ありがとうございますニャ!」
助けた少女・ミラが帽子を脱ぐと猫のような耳がピョコッと飛び出た。間近で見たら、身長はカケルの膝ほどの高さしかない猫族の子だった
「お礼をしますので、わが家へとお越しください」
「……えっと、じゃあカゴに乗りなよ」
ミラを自転車のカゴに入れ、カケルは自転車で野道を一気に駆け抜ける。そして日本とはかけ離れた西洋風の街にやってきた。
通りでは明らかに人間でない種族も混じっている
青果店ではエルフのおかみさんが客を捌いている。
鍛冶屋で製鉄をするドワーフ。
兵士と思われるリザードマン達が立ち話をしている。
お祖父ちゃんの自転車に乗ってあのトンネルを通ると、異世界を行き来できることがわかったのだ。
「祖父ちゃんが言ってたこと、ほんとうだったんだ……」
そうして、カケルは週末になると、自転車で異世界にサイクリングに出かける日々がはじまったのだった――。
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文化放送「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」
5月2日の回のネタコーナー
『タイトルは面白そう』で読まれました(*´▽`*)
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