秋の消えた世界で幼馴染が記憶喪失になりました!~神様世界で秋と記憶を取り戻す~
2xxx年、今、日本から…
『秋』 が消えかけているのである!!!
◇◇◇
①
正確に言えば、秋が夏に塗り替えられていっている…の方が正しいのかもしれない。
ただ、正直そんなことはどうでもいい。
それよりもここ最近、誰もが人生で1回は「秋が暑すぎる」と不満をもらしたことがあるんじゃないかって考えてしまうくらいには暑いのだ…… そう、秋が…………
バンッ!!!
「暑い、暑い、暑すぎる!!」
放課後の教室で、椅子から勢いよく立ち上がる。
と同時に、机に盛大な台パンをかまして、暑すぎる秋への不満をつい口いっぱいに叫ぶ。
そんな彼女の名前は三瀬初季。
名前の通り8月(葉月)生まれ。なのだが漢字は初まりの季節と書き、そのくせ誕生日は8月の最初あたりではない。ついでに言うと終わりの方だ。
苗字には三、名前には八、これらを含めて考えても、なんてややこしい名前なのだろう。
いっそ八月三日生まれなら完璧だったし自己紹介ネタにもなったのに、とつくづく三瀬初季は思う。
春夏秋冬の中で彼女が一番好きな季節は秋である。
なのだが、それは幼かったころの話。
地球温暖化によって、涼しく過ごしやすかったあの秋は今ではすっかり変わってしまった。
なのでつい叫んでしまう。
そして、教室に響いた台パンと叫びに返ってくる声がまた一つ。
「・・・。 初季、うるさいよ……。」
その反応からして彼女の秋への不満はいつものことだとうかがえる。いったい何度その叫びを聞いているのだろう。
同じことを聞き続けてもう共感をすることさえめんどくさいのだろうか、その声は疲れ果てていた。
はたまた彼自身、秋の照り続ける暑さによってまともな返事をする気力がないだけかもしれないが。
彼の名前は立花陽奈斗。初季の幼馴染兼仲良しグループ(全4人)の内の一人である。
性格は言うなればマイペース。そして少し不憫体質、それだけだ。
陽奈斗の返事という名の正論で初季はふと我に返り、急いで椅子に座り直し、焦って周りを見渡す。
「私の声! 誰かに聞こえてないよね⁉」
今度は声だけだったけれども、またまたかなりでかい声で叫んでしまった。
「……聞こえてないんじゃない? ここの教室、防音だったと思うし……」
だいぶ大きい音の台パン&叫びだったけれど、どうやら近くには人いなかったようで、誰かに台パンを見られなかったことには安心した。
握力38kgの台パンの音ははそこまででもなかったらしい。(高校生女子の平均は訳26kg)
『初季は握力が強いのだ!』
もし初対面の人がこの場面を見てしまったなら、あやうくその人の中での私の印象が「台パン怪力ゴリラ」になってしまっていたとこだった。他の生徒が誰も見ていなくてよかった… 神様に感謝……!!
初季はそう心の中で思った。
すぐ神様のおかげと考えるようになったのは家が神社の友達がいるからだろう。
誰かに見られ、ゴリラだと思われなかったこと自体は幸いだった、それ自体は。
そうなのだが……
「なんで……? なんで開かないの……⁉ 私の握力で開かないドアなんて今までなかったのに」
「まーまー三瀬サン、あと何分かすればみんなも来るんだしさ? 落ち着こ? ね⁇ ジャナイトサ…… オレタチ……
部屋の温度上がって死んじゃうって―――!!!
シンジャウッッテ―――――――――――――!!!!
s i n n z y a u t t e ―――――――――――――――!!!!! 」
――――私立彩花学園 2号館 新校舎 部活棟6階 6-4教室、この部屋に閉じ込められてから早一時間――――
夏休みが明けてまだ一週間もたたないその日、ある高校の一教室で二人の生徒が閉じ込められていた。
ここは防音室。そして運悪く、周りには生徒や教師がいない。
叫んだって声は部屋の外には届かない。
それなのに、暑くて頭がおかしくなってきたのだろうか。陽奈斗の悲痛な叫びが部屋を抜け、校舎を抜け、空まで響いた気がした。
初季は遠い目をしながら空をみていた。いや、もう見るしかなかった……
さて、なぜこうなったかというと遡ること数日前……
◇◇◇
初季は頭を悩ませていた。
終わらない学校の課題、一向に涼しくならない暑さ、女の子らしからぬ自身の握力の強さに。
それはいつものことだが、悩みの原因にはもう一つあった。
幼馴染の一人、立花陽奈斗についてだ。
初季と一緒に教室に閉じ込められることになった人物であり、その元凶でもある。
つい最近のことだが、初季と陽奈斗含む四人のグループチャットにそのメッセージは投下された。
夏休みの中盤頃から突然謎に連絡がつかなくなった陽奈斗からだった。
そのマイペースさゆえ誰も特に彼を心配はしていなかったのだが。
なんせ以前にも長期休暇中に連絡がつかないと思ったら、「世界に疲れたから童心に戻ろうと思った!」という理由で1か月スマホ使わないチャレンジなるものを一人で開催していた、ということがあったくらいだ。まあつまりデジタルデトックスといえばいいだろうか。
けれども今回はそのような理由ではなかったらしい。
『久しぶり―!! ほんとうに突然なんだけど ちょっと記憶喪失になっちゃってさ
夏休み明けて今度皆にみんなに会ったときに詳しいことは話すね
まあ、ケガとかはしてないし 大したことないから心配しないで―』
〈〈〈 いや大したことありまくりじゃん 〉〉〉
初季含むグループチャットの全員がそう思ったであろう瞬間だった。
記憶喪失が大したことないなんて人としてどんな精神を持っているんだろうか。
初季の握力が誇張してゴリラなら、この人は精神力ゴリラ(?)かもしれない。
結局そのあとは皆で会う日にちを決め、とりあえずオンライン上での会話は終わった。
陽奈斗がマイペースだということを忘れてはいけない。そして少しだけ不憫体質。
彼が夏休み最後の思い出を作ろうと急に思い立ち、夏休みの最終日二、三日前に空を飛んで一人旅をしにいったところ、天気予報に一切なかった突然の悪天候にぶち当たってしまったこと、そして飛行機が欠航して旅先から帰れず、夏休み明け最初の登校日に間に合わなかったことはまた別の話である。
◇◇◇
そしてなんやかんやで夏休みが明け、その日 (当初の約束より数日ずれた) になった。
彼らはその日の放課後に会う約束をしていた。
聞きなれたチャイムの音が校内に響く。授業のおわりだ。
それは放課後を告げるチャイム……ではなく、六時間目の終わりのチャイムであった。
初季たちの通う学校では七時間授業が基本なのである。
つまり、約束の放課後までには後一つ授業が残っているのだが……
軽快な足音がまだ誰もいない部活棟に大音量で響き渡る。
「わー!! 私誰もいない部活棟見るの初めて! いつも人いっぱいいるからなんか新鮮!」
「ねえ初季! 走るの早すぎだって!!」
「どっちが早くつけるか勝負しようって言ったきたの陽奈斗でしょ! しかも私より前走ってるよね!?」
初季と陽奈斗は廊下を全速力で走っていた。
二人は同じクラスなのだが、実は今日、彼らのクラスでは七時間目が教師の出張により自習に変更されたのだ。自習という名目ではあるが監視の教師も今回は来ていなく、実質生徒たちにとっては自由時間だった。
七時間目が終われば他の教師の指示なく自由に帰って良い旨も担任から伝えらえていた。
そんなわけで、生徒たちは皆各々自由に過ごしていた。机の上で教科書を枕にしながら寝る者、友達とおしゃべりををする者、教室を離れて図書室に読書をしに行く者、保健室に寝に行く者などなど。
なので初季たちも放課後にはまだ早いが、二人で部活棟に行きグループチャットで約束した残りの二人を待つことにしたのであった。だが、その決断が悲劇を巻き起こしてしまう。
そんな二人だったが広い部活棟内を爆走の末、約束の教室の前に到着した。
「着いた!」
初季は職員室から取ってきたカードキーをピッ!とドアにかざし、ロックを解除する。
ドアの開け方がなんだか最先端なのは私立だからである。この高校は最近改修されたので結構きれいであり、何かと新しいのだ。ドアもその一つと言えよう。
カードキーをかざす、ドアが開く、そして部屋の入口すぐ横の壁部分あたりの場所にカードキーを差し込んでおく簡単なシステム。
旅行先のホテルや宿でよく見かけるだろう。差し込むと部屋の電気などがつくタイプのあれだ。
「あ、」
陽奈斗が何かを言いかけたが、マイペースはいつものことなので気にしない。
部屋のロックが解除されたたので、二人は部屋に入る。扉が開いた瞬間になぜか陽奈斗が勢いよくドアを開け部屋の中に入っていったため、初季がそれに続く形となった。
その際肩が少しぶつかりカードキーを落としてしまったので初季はそれを拾おうと後ろを振り返ったのだが、そこには壁があった。
(え?)
頭が今の状況に追い付かなかったため、一瞬の間が空く。
「え、なんで閉めたの」
「それがさ、さっき廊下の奥の方に先生みたいな人がいてさ。すご――――く怖そうな顔のマッチョの男の先生だったの。」
陽奈斗は頭の上に指で鬼の角を作るようにして言った。
「見つかって怒られたりしちゃったら困るからさ、急いでドア閉めちゃったよね。」
「多分それ山ちゃんだよ……。顔は怖いけどすごい優しいで有名な音楽の先生で、あと吹奏楽部の顧問もやってる。覚えてないの?」
「あ、そうだったの⁉ ごめんね、俺記憶喪失だから許して……」
少し悲しそうな顔で初季の方を見る。あれは自分の顔がいいとわかってやっているとしか思えない。
確かに陽奈斗に関しては顔は整っている方だと初季も思うが、初季にとって今そんなことを考えていられる状況ではなかった。正直どうでもいい。
カードキーは部屋の外、しかもそれを差し込んで置く前にドアは閉められてしまった。
カードキーが差し込まれていなければ、中からでもドアは開けられないのだ。
(とんだ欠陥構造……)
初季は途方に暮れる。
改修されたばかりの校舎の導入されたばかりのシステムだからか、それとも防犯上の観点からだなのかは初季には分からないが、今分かることは一つ、二人は炎天下の中部屋に閉じ込められてしまったのである。
今の状況を理解し、初季は一息深く吸ってから言った。
「言いずらいんだけどさ…… さっき外ににカードキー落としちゃって、」
「ん? どういうこと? じゃあ拾えばいいんじゃないのー?」
「え?」
「え、なになに」
二人の間に沈黙がながれる。
「カードキー差し込む前に陽奈斗がドア閉めたから私たちここから出られない……」
「…… そういうシステムだったんだ…… 記憶喪失のせいかそのこと覚えてなかった、ごめん!!!!」
記憶喪失で覚えていなかったなら仕方がない。これはそういう偶然が重なった事故だったと思えばいいか……
それにしては、陽奈斗が朝から初季と普通に会話をしていたのは一体何だったんだ。
普通記憶喪失になったら、私たちクラスメイトの名前も最初に聞くものではないのか、漫画やアニメだったらそれがお決まりの展開なのに!
そう初季は思いながらも今の状況が衝撃的すぎてそんなことを詳しく考える余裕はなかった。
「今は七時間目の最中、うちは自習だったけど他のクラスは普通に授業だから二人にも連絡つかないし…… 私たち熱中症にならないといいね、陽奈斗……」
「少なくとも一時間くらいはこのままってこと…⁇ 残りの二人がきてくれるまで……?」
かくして二人は、カードキーを差し込んでいないため天井の明かりもエアコンもつけられないその部屋から出られなくなってしまったのである。
ある意味忘れられない日になったに違いないだろう。良くも悪くも。
◇◇◇
そして冒頭の窮地に、今に至る。
疲れ切っていた二人だったが、ついに希望がやってきた。
「陽奈斗!! 足音が聞こえる!」
「助かったってこと……?」
足音は少しずつ近くなり、それと共に二人にとって聞き馴染みのある声が微かにだが聞こえてきた。
「先生のお話長くてちょっと遅くなっちゃったね。それでも急いで来たからまだあんまり部活棟に人もいなかったし、初季ちゃん達もそこまで待ってないといいけど……。
あれ? ねえ、何かドアの前に落ちてるみたい。……カードキー⁇」
ある少女と少年は目を見合わせる。
「ん、え それほんとに言ってる? ……マジじゃん。じゃあ二人ってもしかして今」
少年はため息をつきながら床に落ちている一枚のカードを拾ってドアにかざす。
そして扉を開けると、
「にぃ――みやぁ――――!!!!」
「あやめ――――!!!!」
初季と陽奈斗が声を重ねて叫ぶ。
二人はついに灼熱の部屋から出ることができたのである。
四人全員が集まり、やっと本題へと移れることになったのだった。
彼、立花陽奈斗の記憶喪失について。
そしてその後、もっと彼らの頭を悩ます規模の大きすぎる話を知ることになったのだった。
消えかけている秋を取り戻す必要があることを。
◇◇◇
②
「で、一時間近く閉じ込められてたってこと? 馬鹿としか言えないでしょ……」
「「 ご、ごめんなさい…… 」」
やっとのことでサウナと化した教室から解放された初季と陽奈斗だったが、
今度は床に正座をしながら怒られていた。
その2人の前では猫っ毛の少年が腕を組み、呆れた目で彼らを見降ろしていた。
気持ち長めの前髪に少し隠れた吊り目は、二人を睨んでいるようだった。
が、背も低めであり、全体的に整っていて女の子のような綺麗な顔立ちなので、実際そこまで怖くない。
新宮理世。家が神社であり、初季達も幼いころからそこでよく遊んでいた。
「それにしても大変だったみたいだね。はい、お菓子と飲み物もってきたよ!」
天美原あやめは他三人のやり取りを見て、微笑みながらエアコンの電源を入れる。
そして机を四つくっつけ、家から持ってきていたのだろうか、食べ物類をその真ん中に置く。
「あやめ……!!!!」
なんて準備がよく、気の利く優しい子なのだろうか。きっといいお嫁さんになるに違いない。
初季は心の中でしみじみ思う。
光に照らされ、所々薄紫色に光るサラサラロングヘアーも初季好みである。
「まあ、元気そうでよかったけど。」
「なんだかんだ理世も優しいよね~」
「黙って陽奈斗」
「なんで……泣」
幼馴染四人、いつもの光景である。
◇◇◇
「前に送ったメッセージ通りなんだけど、お医者さんに行ったら記憶喪失だって言われちゃった。」
陽奈斗が言う。
いろいろと内容を省きすぎではないだろうか。
「それなんだけど!! なんで私たちと普通に話せてるの⁉
ここは普通 『ねえ、俺って普段どんなかんじだった……?』
とか、 『うん? 君の名は……?』 とかじゃないの⁉」
初季が詰め寄る。
「うーん、もしかして、嘘だったりする?」
「陽奈斗ならあり得る」
「初季に理世まで俺のこと疑うの⁉ そんな、」
普段の行いが大切なのがよくわかる。
陽奈斗が咳払いをする。
「正確に言うと、逆行性健忘?みたいな診断だったかなー、難しい言葉でよくわかんないけど。 簡単に言えば、特定の時点より過去の、一部だけ忘れてる?みたいなかんじで。
俺の場合でいうと、この間森に行ったんだよねー。ほら、新宮家の神社の奥の方にある。」
陽奈斗は語りだした。
「でさ、夏休みが始まったころにタイムカプセル無事かな~、箱が土から出ちゃたりしてないかな~って気になって確認しに行ったらねー……
うっかり滑って頭打っちゃって、気づいたら病院のベッドの上でした!ってことがあって」
その時の記憶が飛んでしまったらしい。加えて幼少期の記憶も所々覚えていないようであった。
「タイムカプセル埋めた場所…… 忘れちゃった」
「「「え」」」
「…… ごめんね?」
三瀬初季・立花陽奈斗・新宮理世・天美原あやめ。この四人は家が近所であり、幼稚園からの幼馴染である。
あれは小学生低学年だったころの秋だっただろうか、皆でタイムカプセルを作ったのだ。
高校を卒業したら皆で開けようということになっていた。
そして山のどこかの樹の下に埋めた……らしい。
というのも、全員が埋まっている場所を知っていたらつまらない!という小学生だった頃の彼らの考えにより、陽奈斗だけが山に埋めに行ったのだ。
初季は歩くのが疲れるから嫌だ、理世とあやめは服が汚れるのが嫌だからという理由で結局陽奈斗しか山に行く人がいなかった、ということもあったりなかったりしたが。
「た、大変だったんだね。私たちに何かできることあるかな? タイムカプセルも開封できなくなっちゃったら悲しいし……」
「理世……!! それでなんだけど、お医者さんには『時間にまかせるしかないですね』って言われたし、一切記憶がないってわけでもないからさ、生活に支障がないから治療っぽいことは必要もないらしくて……」
「じゃあ私たちでどうにかするしかないと……⁉」
「初季……!! でもどうやって、」
「……景色とか、あと当時の音楽聞いたり写真見たり、食べ物食べたりするとその時の記憶を思い出す、ってよく聞くけど」
「新宮まで……!!!! じゃあタイムカプセル埋めた時はちょうど秋だったから、その時に見たり食べたりやったりしたことをもう一回体験すればもしかしたら俺の記憶も、戻る……⁉」
「保証はできないけど。あとそれで記憶が戻るとしても確率はすごーく低いと思うし。それでも陽奈斗がやりたいんだったら僕は付き合うけど」
「あ! それなら小学生だった頃の日記、私の家にあるかも! たぶんその日のこととかも書いてあると思う」
そんなこんなで勢いよく話が進み、あの秋の日を再現することに決まったのだが。
「皆、俺のためにありがとう…… よーし! まだ全然ノープランだけど皆で頑張るか!
ちょうど夏休み明けでタイミングもばっちりだし、秋っぽいことするぞー! 秋っぽいこと、秋ね、秋……」
「……」
「……」
「……」
そこで四人は気づいてしまった。
◇◇◇
2xxx年、世界ではここ数十年で地球温暖化などが急激に進行した。
そして、遠い先であるかのように思われていた平均気温の劇的な上昇により、様々な社会問題も発生してきており、世界が総力を挙げて日々気候変動や異常気象のための研究にいそしんでいる。
が、現状はあまり変わらないままだ。
今までのツケが人類にとうとう回ってきたのだろう。
予測よりも大幅に速さを増した温暖化だったが、その原因は未だに明らかにはなっていなかった。
というよりかは、原因が分かっていなかった。
そんな状況のため「政府が秋の消失をわざと促進している」などの陰謀論が出てきたり、「人間の今までの行動が神を怒らせたんだ!」と主張し、神を大切にしろと訴える宗教なのかよくわからない団体が抗議をするなどして、ニュースに載ったことも記憶に新しい。
これらのように、季節の消失が本当に温暖化のせいなのかどうかの議論や噂話が一時期、町ではよく聞かれたのである。
かつて四季が存在した日本ではその温暖化の影響が特に顕著であり、その結果として秋の消失が見られてきていた。
そのため数十年前とは様々な点で状況が変化していた。
『秋体験なら北海道へ!』
最近の観光業界でよく耳にするキャッチフレーズだ。
秋の植物などは北側の地域でかろうじてが育つ程度になってしまった。
少し昔に、紅葉の名所としてにぎわっていた場所では、客数の減少が起きていた。
紅葉において、木の葉の色づきのためには朝晩の寒暖差が重要である。
そのため最近では温度の上昇によって木の葉の色づきが悪くなったり、そもそも紅葉がおきなかったり、暑さによって枯れてしまうことが多くあった。
地理の教科書なんかには『秋』という季節が過去どんなものだったのかが写真付きで記載されているページがあるほどである。
世間では初季達の年齢の子供をまとめて、『秋を実際に体験した最後の世代』と呼ぶこともある。
ちょうど今高校生に当たるであろう年代の人たちのことであり、彼らが小学生低学年あたりのころに秋がほぼ見られなくなったことからそう呼ばれている。
◇◇◇
「秋ってもうこっちの地域ではほぼないんだっけ…… 俺北海道に移住するべき⁇」
「そ、そんなことないって!! 秋はなくても、『再現』すればいいんでしょ?」
友達をがっかりさせるまいと初季は口をついていう。
いつもならすぐあきらめてしまう初季だが、今回は違うようである。
「そうだよな! 諦めたら終わりだって誰かが言ってた! よーし、まずは秋を『再現』してみるか!!
秋の季節それ自体を取り戻すことは、そのあと考えればよし!」
「そうそう!! 私たちの記憶と秋奪還作戦スタート――っ!!」
「お――っ!!」
初季と陽奈斗は声高らかに叫ぶのであった。
現実的に考えてほぼ不可能なんじゃないかと思うチャレンジであろう。初季自身も少しはそう思う。
(最後の良い思い出になりそうだな)
しかし、こうして何も考えずにとんとん拍子で話が進んだり、勢いに任せて思うがままに突き進んでいけるのはきっと若い今のうちだけだろう。それならば、いつかは失われているであろう今のこの時間を楽しんでいたいのだ。
「あれそのまんまにしといて大丈夫なの?」
「まあまあ、楽しそうにしてるしいいんじゃないかな? 高校生活の思い出作りにもなりそうだし?」
理世とあやめは、はしゃいでいる二人の横でその楽しそうな様子を眺めていた。
こうして、彼らの記憶と秋をめぐる物語は幕を開けたのであった。
消えていくように見えた秋の本当の理由をつゆ知らず。
そして後日、ひょんなことから、彼らが神々の世界に足を踏み入れることになってしまうこともまだ知らず。
―――――――――――――――――――――
☆お読みいただきありがとうございました!
本作品は、勢いに任せて書いた 下記作品 の最初期構想になります。約半年前+人生初書きのため小説のルールなどぐちゃぐちゃです泣。これから長編投稿したいと思っています……!!
※こちらのお話は『消えゆく秋に逆らって!』として長編での投稿を予定しています!
生者と死者を隔てる現世と冥界、そしてその狭間の神様世界で繰り広げられていく彼らの四季と記憶を巡る物語をお楽しみに!!