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ラッシュレックレス  作者: 檜鶯盈月
第1章 暴かれた真実
9/12

壮絶な一騎討ち

「これはなんと下劣な言葉使いなのでしょう。とてもではないですが、元王子ともあろう人の話し方とは思えませんね」

 カシュナータは苦虫でも噛んだような嫌な顔をした。


「うるせぇ! 大丈夫か、父さん?」

 それでも、そう簡単に割り切れるものではなかった。

「止めろ! いや、止めてください! 王子。もうお分かりでしょう。私はあなた様の本当の父親ではないのです!」

 エゼルベルクの言葉は微かに悲しみに打ち震えていた。


「おやおや、何とも哀れな姿ですね。かつての仲間には裏切られ、我が子同然に育てた元王子には真実を知られ、立ち直れなくなってしまいましたか?」

 いかにも楽しそうにカシュナータは嘲笑を浮かべた。


「ったくよ、さっきからペチャクチャとよく話す口だぜ! 魔導師より商人にでも鞍替えしたほうがいいんじゃねぇのか?」

「何と!? まだ子供の分際でありながら、この僕を愚弄(ぐ ろう)しましたね! 元王子、あなただけはそう簡単に殺しませんよ! 口は禍の元だということをたっぷりと身を持って味わってもらいましょう!」

「上等だぜ! お前なんか二度と減らず口を叩けなくさせてやるからな!」

「王子、少しお待ちを!」

 気分が乗ったところをエゼルベルクが制止した。


 勢いを削がれた形になったが、ナファネスクは文句を言わなかった。今まで押されっぱなしだったエゼルベルクの目は闘志に燃え上がっていた。


☆☆☆


「なぁ、一言言わせてくれよ」

 ナファネスクは今こそ思っていることを言わなければ、と思った。

「あのよ、今さら王子って呼ぶのは止めてくれねぇか。何だかこそばゆいぜ。今までみたいにナファネスクでいいよ。俺からすれば、誰が何と言おうが、昔もこれからもあんたは俺の父親なんだからさ!」

「王子……」エゼルベルクは感慨深げだ。


「分かりました。いや、分かった。ナファネスク、お前に見せなければならないものがあると言ったのを覚えているか?」

「ああ!」

「それは、ユリゴーネルさんが言っていた獣霊降臨(ペンテコステス)のやり方についてだ。これこそ獣霊使い(ドマドール)の真骨頂。今見せてやるから、しっかり習得しろ!」

 エゼルベルクは精神を集中した。手の甲に獣霊使いの紋章が浮かび上がる。


「精神を統一し、獣霊(アルマ)を意識して一体化するように意識を集中する。それから融合だ! 見ていろ、獣霊降臨!」

 エゼルベルクの頭上に霊体の幻獣である気高き光獅子(ひかりじし)ブエルゾラハが姿を現した。そのまま父親の体に舞い降り、融合して幻獣騎兵(ポルタビオーネス)ブエルゾラハとなる。


 真っ白で勇壮な獅子の顔を象った兜を頭に被り、同じ色の全身鎧で覆われている。右手には三叉の槍を携えていた。ただ、翼はなかった。

「ナファネスク、これが獣霊降臨した姿だ。お前もやってみろ!」

「おっと、そうはさせねぇぜ! ブエルゾラハよ、この俺と一騎討ちの勝負だ!」

 高々と名乗りを上げたクインシュガーはすかさず攻撃の構えを取った。同時に、頑丈な鎖で吊るされた螺旋刃(らせんじん)にも変化が生じた。


 円盤の外側から幾つもの鋭利な小型の刃が一斉に飛び出し、凄まじい速度で回転を始める。

「お前とは一度戦ってみたいと思ってたんだ。今度は本気で行くぞ! 喰らえ!」

 頑丈な鎖を巧みに操ると、膨大な獣気(じゅうき)を帯びた二つの螺旋刃がブエルゾラハに向かって襲いかかる。それに対して、ブエルゾラハはジグザク方向に素早く後ずさりながら、後方に高々と跳躍して一つ目の螺旋刃を避けた。だが、地面を穿(うが)つ穴は先ほどとは比べ物にならず、同時に荒々しい衝撃波が巻き起こる。


 宙に浮いた状態のブエルゾラハは体勢を少し崩された。そこへ、もう一つの螺旋刃が狙いを定めて強襲する。それをありったけの獣気を注ぎ込んだ三叉の槍で受け止めた。


 ぶつかり合う武器の甲高い金属音が響き渡り、獣気と獣気が激しく衝突する。だが、ほんの僅かにクインシュガーのほうが勝っていた。ブエルゾラハは強引に押し返され、地面に片膝をついた。

「まだだ! こんなところで負けてたまるか!」

 奮起の雄叫びを上げると、劣勢のブエルゾラハは螺旋刃を力強く弾き返した。即座に体勢を立て直し、身構える。


「クインシュガー、今度はこちらから行くぞ!」

 ブエルゾラハの全身から放出する獣気が急激に膨張する。間髪入れずに上空にいる敵の幻獣騎兵に向かって驚異的な瞬発力と速度で跳躍していた。まさに光の矢のように。


 クインシュガーは全身を左によじって(かわ)そうとした。ところが、ブエルゾラハが突き抜けた瞬間、左肩の鎧がバラバラに砕け散る。


「チッ! さすがは《無敗の闘神》と言われるだけあるぜ!」

 血が滲み出た左肩を逆の手で押さえながら、レストフォルトの口元が苦々しく歪んだ。

「まだだ! これだけじゃないぞ!」

 跳躍の頂点に到達したブエルゾラハは、さらに追撃を与えるために三叉の槍を構えていた。


「我が槍の真髄、止められるものなら止めてみよ!」

 神業とでも言うべき速さで繰り出す無数の突きに対し、クインシュガーは手首に取り付けた盾にもなる二つの螺旋刃で防御に徹した。


 ほんの一瞬の攻防の末、ブエルゾラハの全ての攻撃は二つの円形兵器で受け止められたかに見えた。それでも、クインシュガーは地上に向かって一気に押し返され、防御一辺倒に徹した構えを大きく崩された。


 自らが作り出した絶好の機会を逃すわけがない。ブエルゾラハは降下しながらも全身全霊の獣気を三叉の槍に注ぎ込んで、渾身の一撃をおみまいする。


 あまりの途轍(とてつ)もない威力にクインシュガーは真下に突き飛ばされた。地面に思いっきり激突すると、口から血反吐をまき散らす。間違いなくレストフォルトの全身の骨にはひびが入っているか、最悪の場合折れている可能性があった。これで、勝敗は決したようだ。

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