浅い眠り
「なら訊くが、生きる目的を見失った俺にこれから何をしろって言うんだ? まさか祖国再興とか言わねぇよな?」
【残念だろうが、お前とヴェラルドゥンガが戦った場所は海底へと沈んだ。祖国再興は至難の業だろう。だが、獄淵界との扉はまだ封じられてはいない。現実世界に戻れば、自ずと新たな目的を見出せるはずだ】
「そういうもんかねぇ」
人々が平穏に暮らしていくには獄淵界の扉はどうしても封じなければならない。そのためにまた戦うのも悪くない話だった。
不意に三年前の、霊峰マハバリ山で壊神竜を魂に宿したときのことを思い出した。
当時、父親代わりだったエゼルベルクは冥邪の存在しない世界を作りたいと宣言していた。
冥邪天帝は斃したが、まだ冥邪どもはこの大陸に巣くっている。生きている限り、これから何年かかろうとエゼルベルクの遺志を継ぐべきかもしれない。そう考えると、あの頃のように胸が高鳴り、心が躍動した。
相変わらずではあるが、カサレラなら「バカなあんたらしい」と受け入れてくれるはずだ。
この大業を成し遂げるためにも、この旅路で共に戦ってきたオルデンヴァルトやハバムドに加えて、幾度も自分を助けてくれた焔豹のハクニャの生死の有無が気になった。
全員がエスカトロン城から無事に脱出し、いつの日か笑顔で再会する日が来るのを切に祈るしかなかった。
「なぁ、ゼラム。もしまだ肉体が存在していたら、また冥邪天帝の座を狙っていたか?」
不意の問いかけに壊神竜はまたもや沈黙した。
【……今の我にはもはや昔のような野心は燻ってない。お前の魂に宿っている間に、我の心は少し変わったのかもしれぬ】
「そうか……」
その言葉にナファネスクは満足した。
【まずはここでゆっくりと傷を癒せ。その後のことは傷が治ってから考えればよい。我は常にお前と共にある】
「ああ、そうするよ」
ナファネスクは、壊神竜の言葉に従うことにした。また瞼を閉じる。
(そう言えば、あの悪夢は正夢ではなかったな)
一部が海低に沈んだとは言え、渾沌と自由の大陸エルズラーニアはまだ存在している。夢に現れた初老の男の預言は大きく外れ、この世界は滅びることはなかった。
そんな下らないことを思い返しながら、ナファネスクは眠りに落ちていった。
次にいつ目覚めるのかは誰にも分からないまま――。
了
最後まで読了して頂き、ありがとうございます!
ご意見、ご感想、ご批評など何でも構いませんので、残してもらえると幸いです。
一応ラッシュレックレス2を考えております。
一年後、ナファネスクは虚無の空間から現実世界に戻ります。
冥邪王だった壊神竜ゼラムファザードと獣霊降臨をして禁忌の申し子になったナファネスクの元へ、今度は天聖界からの刺客たちが襲いかかるという内容になっています。
ネタバレですが、オルデンヴァルトやハバムドなども生きていて、祖国復興を旨に義勇軍を立ち上げています。
また新たな登場人物も登場するので、待っていてください。




