カサレラの幻影
「ヴェラルドゥンガ、どっちが上なのか、今すぐ思い知らせてやる!」
ゼラムファザードは重量感のある両刃鎗を振り回して襲いかかった。
「小癪な! 返り討ちにしてくれるわ!」
ヴェラルドゥンガも全身から出せる限り絞り出した妖気を二叉の槍の穂先に注ぎ込んで迎え撃つ。
爆音のような音とともに極限まで膨れ上がった獣気と妖気が猛然と激突する。それによって生じたあまりにも凄まじい衝撃波が周辺にあるもの全てを遥か彼方に吹き飛ばした。
お互いの力は拮抗していた。これでは先に力尽きたほうが負ける。
(クソ! これが俺の限界なのか!?)
「ナファネスク!」
不意にカサレラの呼ぶ声が聞こえてきた。すると、宙に浮かびながら、両腕を大きく広げて近寄って来る彼女の幻影が現れた。
その顔には今まで目にしたことのない至福の笑みが浮かんでいた。ナファネスクが出会ってからずっと見たかった笑顔だった。
(そうだ! 今こそカサレラの魂を救い出してやるんだ! それができるのはあいつのことをこの世界の誰よりも好きになった俺しかいねぇんだ!)
ナファネスクは今まで以上に力がどんどん湧いてくるのを感じた。その直後、微塵も勝利を疑わなかった。
「とっとと死にやがれ!」
既に噴き上げる獣気は限界の域を超えていた。それを現すようにゼラムファザードの全身が神秘的な光に包み込まれる。
「そんな馬鹿な!? 我が、我が負けると言うのか――」
それが一度は壊神竜をも捻じ伏せたヴェラルドゥンガの最後の言葉になった。獣気と妖気の押しつ押されつつの均衡を打ち破ると、重量感のある両刃鎗が一刀両断に斬り伏せたのだ。
薄紫色の激しい血しぶきを噴き上げ、ヴェラルドゥンガが驚愕の表情のまま死に絶えた。
「やったぞ! 俺は勝ったんだ!」
眩い光に包まれた全身が消えゆく中で、ナファネスクは歓喜の笑みを浮かべていた。
「さぁ、行こう! カサレラの元へ!」
諸悪の元凶である冥邪天帝ヴェラルドゥンガはこの手で屠った。ナファネスクはもう自分の役目が終わったことを実感した。とても満足だった。




