心底愛するがゆえに
【どうした? あの少女の魂を解放するのではなかったのか?】
「だから、今やってるだろ!」
【ならば、再び箍を外すのだ! そうせねば、あやつは斃せぬぞ!】
「それが、この前のときみたく上手くできねぇんだよ!」
ナファネスクは正直な気持ちを口に出した。全ての冥邪どもを極滅し尽くすほどの力の引き出し方がいまいち掴めなかった。
【今こそあの少女に対して抱いていた感情を全て呼び起こせ! お前にとってどれだけ大切な存在だったのかを心の底から思い返すのだ!】
いつも以上に饒舌な壊神竜には驚かされたが、ナファネスクはその言葉にありのままに従うことにした。カサレラに対する思いに身を馳せた。
一心に恋焦がれた見目麗しい少女。これから先、もう二度とあれほど人を好きになることはないだろう。そう思えば思うほど、この一途な思いを無情にも踏み躙ったヴェラルドゥンガを決して許すことはできなかった。
沸々と憤怒と憎悪が自分の心に満ち満ちていくのを感じた。それを力の根源にして《哭天の魔神》に覚醒する。
「ウガァァァァ!」
咆哮とともにゼラムファザードの獣気が桁違いに膨れ上がる。箍が外れた瞬間だった。
「ナファネスク様!」
不意に背後から聞き慣れた声を耳にした。振り向くと、オルデンヴァルトとハバムドが駆けつけていた。
嬉しいことに先ほどの別れは今生の別れではなかったのだ。しかも、二人ともほとんど無傷みたいで心から安堵した。
「二人とも今すぐここから離れろ! 悪いが、ハクニャも頼む!」
「ナファネスク様は?」
「俺はこいつを屠るだけだ!」
ゼラムファザードの全身から溢れ出る獣気は以前のときより遥かに凌駕し、段違いに途轍もなかった。このままヴェラルドゥンガに突撃すれば、間違いなく斃せるはずだ。
ただ、全身鎧を身に纏っているとは言え、ナファネスク自身も無事では済まない。状況次第では、ここら辺一帯の地形にも多大な影響が及ぶかもしれなかった。それほどまでに爆発的な破壊力を持っていた。
「分かりました! ご武運を心から祈っています!」
意識の失ったハクニャを抱きかかえたオルデンヴァルトは、ハバムドと一緒にその場を後にした。
ナファネスクを見捨てたわけではない。むしろ、その真逆だ。自分たちがいては全力を出しきれないと悟った上での賢明な判断だった。




