戦友との再会
「――!?」
エゼルベルクは俊敏な動きで真後ろに飛びずさる。先ほどいた場所には円形の武器によって大きな穴が穿たれた。その瞬間、ナファネスクは物凄い獣気が放出されるのを感じ取った。
「この攻撃は!? まさか、そんなはずはない!」
エゼルベルクは今の特殊な武器を見て、何かを全否定するように首を横に振った。
「久しぶりだな、エゼルベルク!」
親しげに父親に話しかけてくる者を見るため、二人は上空を見上げた。
(何だ、あれは!?)
漆黒の全身鎧で覆われた人間が、背中から生やした一対二枚の大きな翼で大空を羽ばたいていた。両腕の手首から頑丈な鎖が下に垂れ、直前に攻撃してきた円形の盾の形をした円盤兵器――螺旋刃に繋がっていた。
信じ難い光景を目の当たりして、ナファネスクは思わず唖然とした。
「あの幻獣騎兵は紛れもなくクインシュガー!? その中にいるのはレストフォルトなのか?」
「ああ、そうだ!」
天翼虎クインシュガーを獣霊とする幻獣騎兵に相応しく、獰猛な猛虎の顔を象った兜を頭に被っている。その口から返事が返ってきた。
「そうか、生きてたのか。だが、どうして私を攻撃する?」
「頭の良いお前のことだ。とっくに分かってるんだろう? 察しのとおり、俺は勝ち目のないアルメスト王国を捨て、帝国に寝返ったのよ!」
クインシュガーから不敵な笑い声が聞こえてくる。
「まさかとは思いたかったが、やはりそうだったのか! レストフォルト、お前!」
かつて共に戦った戦友の裏切りに、エゼルベルクは憎悪を露わにした。
「残念ながら、懐かしい再会とは行きませんでしたね、レストフォルト殿」
二人の間にカシュナータが割って入った。
「エゼルベルク殿、あなたと同じく元アルメスト王国の五大英雄神の一人で、《殲滅の死神》の異名を持つレストフォルト殿は我々と手を組みました。とは言え、真っ先に祖国を捨て、逃げ出したあなたが彼を非難できますか?」
「何だと!? 私は――」
「王子を助けるべく、滅びゆく王国から一目散に逃亡したんですよね?」
エゼルベルクの話を遮り、カシュナータは痛恨の一手を突きつけた。
「違う!」
「いったい何が違うのでしょう? それと、僕たちが使えない者揃いというのは聞き捨てなりませんね。無論、あなたの戯言などすぐに撤回させてあげますよ。その証拠に、僕の比類なき魔力によって、異次元にある獄淵界に通じる扉は開かれたのですから!」
カシュナータは勝ち誇ったように大声を張り上げた。
「獄淵界との扉が開いただと!? 出まかせを言うな!」
獄淵界は冥邪どもが支配する世界のことだ。
「出まかせとは……エゼルベルク殿、あなたはつくづく癇に障る人のようですね。僕はずっと真実しか言ってませんよ。まぁ、いいでしょう。冥途の土産と言うやつです。どのようにして扉を開いたのか、教えてあげますよ」
自信満々に語るカシュナータの声音が狂人じみた熱を帯びる。
「まず十五歳から十八歳未満の穢れを知らない乙女たちの中から選び抜かれた十二人を生贄として捧げましてね。その純潔な血を一滴も残さず、僕の描いた大魔法陣の頂点に配した巨大な壺に溢れるまで流し込みます。後は獄淵界の扉を開けるための召喚呪文を唱えたに過ぎないのですよ。稀代の名立たる魔導師たちをも凌駕する僕の魔力にかかれば、このくらいいとも容易いこと。残るは冥邪天帝ヴェラルドゥンガ様を顕現させるだけです。これが現実となれば、この世は邪悪な暗黒世界に様変わりする手はず。それも、もう時間の問題なのですよ!」
「そんなことは絶対にさせやしねぇ! その前に、お前らを叩き殺してやる!」
今まで聞き手に回っていたナファネスクは、やっと出番が回ってきた気がして、怒鳴り声を張り上げた。何の会話をしているのか分からなかったせいで、今まで一言も口を出せなかったのだ。
ただ一つだけ何となく理解できたことがある。今まで育ててくれたエゼルベルクは実の父親ではなく、自分は帝国に攻め滅ぼされたアルメスト王国の王子だったってことだ。
心が揺さぶられるほど衝撃的な事実だったが、今は動揺するべきときではないと自分に言い聞かせた。




