カサレラの願い
「先ほどから何を喚いておるのだ? 戦う気がないのなら、即刻死んでもらうとしよう!」
ヴェラルドゥンガが乗り移ったカサレラの右腕がナファネスクに真っすぐ伸び、手のひらに膨大な妖気が凝縮されていく。
その手から妖気の光線が放たれる寸前、何かがそれを邪魔した。焔豹のハクニャが鋭い爪で引っかいたのだ。
「クッ、獣ごときが小賢しい真似を!」
ヴェラルドゥンガは憤激を露わにした。すかさずハクニャの横っ腹を蹴り上げる。
見た目はカサレラだが、その威力は凄まじいものがあった。ハクニャは激痛に鳴き声を上げながら、遠くに吹き飛ばされた。
「ハクニャ!」
ナファネスクはふらりふらりと足取りがままならない中、自分を何度も救ってくれた聖獣に駆け寄った。すかさず抱きかかえるが、気を失っていた。
「ハクニャ、しっかりしろ! どうしてこんな俺なんかを――」
それ以上は言葉が出なかった。今まで一緒に暮らしてきた焔豹の痛々しい姿を見ても、自暴自棄に陥っているナファネスクは立ち直れないでいた。
「今度こそ始末してくれる!」
もう一度右手に妖気を集めようとしたとき、ヴェラルドゥンガに異変が起きた。突如苦悶の表情を浮かべると、呻き声を上げながら両手で頭を抱える。
「ナ……ナファ……ナファネスク、あた……あたしを……す……救って! おね……お願い!」
それはヴェラルドゥンガの言葉ではなかった。最後の力を奮い起こして絞り出したカサレラ自身の言葉だった。
「カサレラ!? お前――」
「えぇい! 黙れ黙れ黙れ! 依り代の分際で我が意思に干渉するとは……どうやらこの体の持ち主を少し見くびっていたか」
ヴェラルドゥンガは予期せぬ事態に動揺しているようだ。
「よかろう! 我が真なる力を見せつけ、もはや二度と邪魔立てなどできぬように内から消し去ってくれるわ!」
憤慨したように雄叫びを上げると、全身に物凄い妖気を充満させた。次の瞬間、カサレラの着ていた衣服が全て引き裂かれ、ヴェラルドゥンガの容貌が露わになった。




