異空間移動
ナファネスクたちは《異空間転移の門》が置かれた場所にいた。
大仰な名前だが、見た目はそんなに驚くほどのものでもなかった。ただ、門という言葉から想像できるものとは大きくかけ離れた建造物がそこに置かれていた。
大人が五、六人乗れる五角形の台から古代魔術文字が刻まれた五本の太い柱が伸び、先端の尖った屋根を支えていた。
おそらくだが、古代の偉大な魔導師たちの指示の下、何年がかりで拵えたのだろう。どことなく異様な雰囲気を醸し出している装置だ。
ナルーガ族の長老たちは、滅亡したアルメスト王国の元王子のナファネスクの凛々しい姿を見るなり、全員が平伏した。それから、ハバムドのこれ以上の横暴を止めてくれことに心から謝意を示した。
ナファネスクにしてみれば、ハバムドを立ち直らせたのは自分ではないので、素直には喜べなかった。それよりも、《異空間転移の門》を使用する許可が満場一致で得られたことのほうが喜ばしかった。
装置を動かす台にはナファネスク、オルデンヴァルト、ハバムドと焔豹のハクニャが乗っていた。
ハバムドが、ナルーガ族の族長のみが決められる秘密の暗号を入力しようとした。ちょうどそのときだ。
ナファネスクの耳にカサレラの悲痛な叫び声が聞こえてきた。
「今の声はカサレラ――!?」
間違いなく自分に助けを求める声だった。もしかしたら、今まさに危機的状況に陥っているかもしれない。そんな不安に襲われた。
「どうかされましたか? ナファネスク様」
「い、いや、別に何でもねぇよ」
一秒でも早くカサレラを助け出したい焦りをどうにか抑え込みながら、オルデンヴァルトの問いかけに答える。ここで急かしたところで、逆効果だと思ったからだ。次いで、ハバムドに訊いた。
「ハバムド、もう行けそうなのか?」
「今入力し終わったところだぜ! 全員、衝撃に備えろよ!」
低い駆動音が鳴り響き、突然青白い光が装置を丸ごと包み込んだ。所々でバチバチと放電が起こる。その直後、転移が起きた。
眩い青白い光の中をナファネスクは宙に浮いたような状態で移動していた。
周囲は漆黒の闇に包まれていた。そんな中、膨大な太さがある一条の光の中に浮いていた。
上下左右の位置が全く掴めず、体勢を上手く保つことができない。オルデンヴァルト以外の全員が同様に宙に浮いた状態に戸惑っているようだ。いくら体を動かしても何一つ状況は変化しなかった。そのまま一方方向に体を持っていかれた。
何一つ身動きが取れず、声すら発せない。
いつまでこの状態が続くのか分からない。ナファネスクの心にちょっとした不安が過った。
(本当にこれで大丈夫なんだろうな?)
万が一転移に失敗していたら、全てがここで終わってしまう。笑い話にすらならない。
時間の感覚すら麻痺し、焦燥感がじわりじわりと募っていく。ただ、それもほんのひと時の出来事だった。
向かっていく方角から激しく光り輝く巨大な円が垣間見えた瞬間、《異空間転移の門》の低い駆動音が聞こえてきた。
しっかりと地面に足が着いている感覚が戻るのと同時に、再び青白い光が異様な装置全体を覆い尽くした。




