予期せぬ来訪者
隠者のような地味なローブを着ているものの、長く伸びたあご鬚は先端が尖るように綺麗に整えられていた。
ナファネスクが注意を惹かれたのは、左手に持っていた幾つもの宝石と装飾があしらわれた荘厳な作りの杖だ。何かしら謂れのあるものに感じられた。
「これは、ユリゴーネルさんではないですか!? いつからそこに?」
父親が問い返す。ナファネスクも父親も全く気配を感じられなかった。
「つい先ほど来たばかりじゃ」
こちらに歩み寄りながら、この村の長であるユリゴーネルはにこやかな口調で返した。
「これはお恥ずかしいところをお見せしました。実はこれから朝ご飯を食べようと思っていたところでして……大したものはありませんが、一緒にどうですか?」
自分の未熟さを恥じ入りながらも、父親は冷静な顔になっていた。わざわざここまで来たのには何か重大な知らせがあると感じ取ったからだろう。
「ナファネスク、お前は早く服を着て、急いで食事の支度にかかれ!」
ユリゴーネルの存在に呆気を取られていたナファネスクだったが、父親の言葉で我に返った。
「ああ、分かった」
ナファネスクもただ事ではない空気を読み取った。急ぎ足で家の中に向かっていく。
「さぁ、村長。むさ苦しいところですが、どうぞ中へ」
父親は丁寧な口調で言った。
「では、失礼するぞ」
ユリゴーネルは全く遠慮せず、ナファネスクたちの家に上がり込んだ。最後に父親が付近の様子を見回してから玄関のドアを閉めた。
気安く人の家に尋ねることなどしないユリゴーネルである。何か不穏な空気が漂っていた。
☆☆☆
男親一人で家事全般をこなしてきたにしては、家の中はきちんと片付けられていた。
居間の中央には木製の円卓があり、ちゃんと来客用の椅子も置かれていた。
「村長はそちらにお座りください。杖はこちらでお預かりします」
父親は低姿勢で対応していた。村長なのだから当たり前ではあるのだが、どこか父親らしくない態度だ。
「いやいや、この杖はわしの半身みたいなものでのう」
村長は丁寧に断った。次いで、「これでよい」と自分の椅子に立てかけた。
その間に、自室で毛織物の上着を急いで着たナファネスクは、早速料理の準備にかかった。
食事は交代で当番を決めていたから、即座に対処できた。すかさず手の空いた父親が台所にやって来て、分担してやることにした。
「さて、こんな朝っぱらから私たちに何の用だろうな?」
父親は少し暗い顔をしていた。この農村には冥邪が出ないという話のときにちょうど現れたのが尾を引いているのかもしれない。
「さぁ、俺に訊かれても……」
ナファネスクは横目でユリゴーネルの顔を覗いた。とても穏やかな顔で、ほとんど緊迫感は感じられなかった。
(いったい何を考えてるんだ? あの爺さん)
焔豹のハクニャは何をしているのかと言うと、食器棚の上に寝転んでこのドタバタ劇をただ眺めていた。




