一度死んだ男
「なぁ、俺が何年ここで暮らしていたと思う? お前の戦い方や癖ぐらいとうの昔に熟知している。お前の気性からして、初撃からあの派手な攻撃を仕掛けてくることは簡単に予測できたのさ」
昔を少し懐かしむようにオルデンヴァルトは話した。さらに続ける。
「見切った攻撃を避けるのはいとも容易い。そうだよな?」
「クソッ!」
この戦いはハバムドの完敗に終わった。
距離を置いて一部始終を見ていたナファネスクには、オルデンヴァルトがどういう風にあの三方向からの荒々しい獣気波を避けたのか、はっきりと見て取れた。同じ獣霊使いだからこそ目視できたと言ったほうがいいかもしれない。
ハバムドが強烈な獣気波を放った瞬間には、聡明な元騎士は両足から獣気を放出して高々と宙を飛んでいた。後は気配を消して、素早く背後に回り込んだのだ。
「お前の負けだ。さぁ、秘密の暗号を教えろ!」
声高に問い詰めるオルデンヴァルトに対して、ハバムドは口を固く噤んだままだ。どうやら勝敗が決したにも拘わらず、弩を向けたままなのが気になっているようだ。
「教えたら、この俺を殺す気だろ?」
痛烈な敗北を喫した手前、「俺様」とは言い出せないようだ。
「お前が族長の座から退き、今までの悪行を悔い改めるのなら生かしてやらなくもない」
恩情をかけた言葉だった。それでも、恩人を手にかけた憎しみは一生消えないだろう。
「断る! そんなことをしたら、ここでの俺の居場所がなくなっちまう!」
「それなら気持ちを入れ替え、俺と一緒にナファネスク様を助けるんだ! 帝国の野望を粉砕するために!」
無様に喚き散らすハバムドに、オルデンヴァルトは新たな未来の道を指し示した。
「帝国の野望? あいつら、また何か企んでるのか?」
「そうだ! ナファネスク様はそれを叩き潰すために奴らが根城にしているエスカトロン城に向かおうとしている! それにお前も着いて来い!」
「おうよ! 俺は今までずっと暴れたくてウズウズしてたんだ! それも、親父を殺したあの憎き帝国に一矢報いられるんだったら、俺は何だってやるぜ!」
勝手に話はまとまったようだ。オルデンヴァルトはハバムドに手を貸し、助け起こした。
「もう気が済んだのか?」
ナファネスクは二人に歩み寄ると、オルデンヴァルトに確認した。
「はい。恩人のドルガガを殺した敵はさっき死にました。今ここにいるのはあなた様の尖兵になることを誓った仲間です! そうだよな?」
「ああ、この俺に二言はねぇぜ! 王子、いや、ナファネスク様、さっきは無礼な振る舞いをして悪かったな。けどよ、このとおり俺は改心したんだ! これから先はあんたのために命を賭して戦うぜ!」
仲間が増えることは心強い。とは言っても、ナファネスクは一応釘を刺しておくことにした。
「念のために言っておくが、俺らは今から敵地の真っ只中に乗り込む! 無事に生きて帰れる保証なんてどこにもねぇ! それでもいいんだな?」
「当たり前よ! 俺は一度命を失ったのも同然なんだぜ! 例えどこだろうとやりたい放題に暴れ回ってやる!」
ハバムドの決意はとても強固だ。ナファネスクは満足した。
「じゃあ、早く新しい族長を早く決めろよ」
「それは長老たちに委ねることにするぜ! この俺が決めるよりも、百倍マシな野郎を選んでくれるはずだからな!」
そこでハバムドはうるさいほど大声で笑った。
「じゃあ、門のところまで案内してくれ!」
「任せとけ! この奥だ!」
ハバムドに先導され、ナファネスクたちは《異空間転移の門》まで向かっていく。これから巻き起こる最終決戦に備えながら。




