罪深き猛者ハバムド
「死んだだって!? あんな立派な人が何て不運なことだ!」
後ろを振り返りながら、オルデンヴァルトは耳を疑うほど悲嘆していた。
「それで、ドルガガはいったい何が原因で亡くなったんだ?」
その問いかけに周囲を重苦しい静寂が包み込んだ。ハバムド以外の獣人たちは何故かとても悔しそうに俯いている。
「あの野郎、俺様のやる事なす事にいちいち説教をたれやがってよ! いい加減目障りだったから、俺様がこの手で殺してやった!」
「お前――!? 彼は瀕死だった俺をこの森で匿ってくれた命の恩人だ。その人を殺したって言うのか?」
オルデンヴァルトの声は激しい憤りでわなわなと震えていた。
「ああ、そうだ! 何しろ俺様は亡きアルメスト王国の五大英雄神の一人に選ばれた《暴虐の獣神》の異名を持つムドバルの息子なんだからな!」
「……なるほど。それで、今の族長は誰なんだ? 教えてくれないか?」
オルデンヴァルトが必死に怒りを押し殺しているのがまざまざと見て取れた。かける言葉が見つからなかった。
「もちろん、この俺様に決まってるだろ!」
想定内の答えだった。ハバムドはその恵まれた膂力で周囲の者たちをねじ伏せ、族長の座を奪い取ったのだろう。長老たちも逆らえなかったに違いない。
「それで、お前のことだ。簡単には秘密の暗号を教える気はないんだろ?」
「まぁな! そこの生意気な元王子と戦わせろ! 無疆の獣気の持ち主なんだろ? もしこの俺様に勝てたら、教えてやるぜ!」
「図に乗るのも大概にしろ! ハバムド、お前など俺にすら勝てやしない! そのことを身を持って叩き込んでやる!」
オルデンヴァルトは怒り心頭に発していた。もはや誰も止めることはできない。
「言うじゃねぇか、オルデンヴァルト! それなら、まずお前を血祭りに上げてやる! 他の奴らは隅にどいてろ!」
有無を言わさないハバムドの命令に、他の獣人たちは嫌々従った。
ナファネスクもハクニャを連れて戦いの邪魔にならないところまで身を引いた。ハバムドの勝利を願っている者は皆無に等しかった。
「ハバムド、亡き親友の子供だからこれまで多めに見てきたが、お前は大きく道を踏み外したようだ。それをこの場で正してくれる!」
何故かは不明だが、オルデンヴァルトは紫電鳥アシュトロアを獣霊降臨せずに、二挺の弩を武器召喚するだけに留めた。
ハバムドも自分の魂に宿る狂暴猪ギャラステインを獣霊降臨したときの武器である巨大な戦斧を武器召喚した。
「そんなちんけな武器で、この俺様に勝とうってか? 笑わせるぜ!」
粗暴な獣人はおちょくるように鼻で笑った。
「俺が勝算のない無謀な戦いには挑まない人間なのは知っているだろ? お前に負ける気などこれっぽっちもない! さぁ、どこからでもかかって来い!」
「ふん! 後で吠え面をかいても知らねぇぞ!」
ハバムドはありったけの獣気を帯びた巨大な戦斧を高々と持ち上げると、全力で地面に叩きつけた。
物凄い地響きとともに戦斧を突き刺した場所から三方向に地割れが起きた。それと全く同じ速さで、荒波のような獣気波がオルデンヴァルトに襲いかかる。誰が見ても、もはや逃げ道はないように思われた。
巨大な戦斧から三方向に放たれた膨大な獣気波は聡明な元騎士のいた場所を通り過ぎてから自然消滅した。そこに人らしき姿はなかった。
「おいおい、跡形もなく消し飛んじまったぜ!」
ハバムドは勝ち誇ったよう大笑いする。
「本当にそう思ってるのか?」
笑いが止まらない粗暴な獣人の背後から凍りつくような冷たい声が聞こえてきた。
「なっ!?」
総毛立つハバムドは振り返りながら、何かを言おうとした。ところが、オルデンヴァルトの強烈な足払いで体勢を崩され、地面になぎ倒される。その顔面のすぐ近くには一挺の弩が突きつけられていた。
「ど、どうして生きている?」
思いも寄らない状況にハバムドは顔面蒼白になる。




