箍を外すとき
【不甲斐ない有様だな。そんな弱々しい力であの少女を救い出せると思っているのか?】
ナファネスクの脳に直接壊神竜の低い声が伝わってきた。
(そうだ! 俺はこんなところでくたばっていられねぇんだ! カサレラを早く助けねぇと!)
それでも、天賦の戦いの才を持つ冥邪王に勝てる秘策は見出せない。アブゾルドも絶対的な勝利を確信したように地面に降り立った。
【あの少女を本気で助けたいと思うのなら、今こそ箍を外すときだ! 無疆の獣気を思う存分解き放て!】
「箍を外す?」
【もっと怒れ! もっと憎め! 目の前に立ち塞がる全ての存在を極滅し尽くすのだ!】
壊神竜の言葉に、ナファネスクは何か未知なる力が溢れ出してくるのを感じた。
(俺はあいつを絶対に守ってやるって誓ったんだ! あいつを救い出せるなら、俺は何にでもなってやる! それが例え《哭天の魔神》であろうとも!)
次の瞬間、立ち上がったゼラムファザードは真の覚醒を遂げた。
「ウガァァァァ!」
もはや叫び声というより、何かの咆哮に似ていた。その直後、ゼラムファザードから今までとは桁外れの獣気は噴き上がる。あまりの変貌ぶりに、止めを刺しにやって来たアブゾルドも足を止めた。
「ほう、ようやくやる気になったようだな」
とても楽しそうに口を開くと、天賦の戦いの才を持つ冥邪王は改めて四本の妖気の剣を構え直した。
「さぁ、我に見せてみよ! 汝の真の力を!」
アブゾルドはまたもや全ての妖気の剣で一斉に斬りかかった。ゼラムファザードも両刃鎗を素早く薙ぎ払った。
またもやありったけの獣気と妖気が猛然と激突する。すると、先ほどまでとは真逆のことが起こった。
両刃鎗が四本の妖気の剣を呆気ないほど易々と弾き返したのだ。思いも寄らない状況に直面したアブゾルドは驚きの表情を隠せないままよろめいた。この千載一遇の好機を見逃す気は更々なかった。
「いい加減消え失せな!」
ゼラムファザードは重量感のある両刃鎗の片側の特大の剣でアブゾルドの胴体を力いっぱい突き刺した。滑らかな弧を描いた幅広い剣先は分厚い鎧を貫通して背中から飛び出し、大量の薄紫色の血しぶきを上げた。
「見事だ……」
特大剣の刀身を伝って血が滴り落ちる中、アブゾルドはとても満足そうに言葉を言い残して死に絶えた。
全身に大量の返り血を浴びながら、両刃鎗を引き抜く。
「俺は勝ったのか――」
今まで悪戦苦闘していたとは思えない展開に、ナファネスクは自分の力ではないような信じ難い感覚に襲われた。だが、まだ戦いは終わったわけではない。
幻獣騎兵アシュトロアと冥邪王エラゾルベも熾烈な激闘を繰り広げていた。




