かつてない強敵
少しの間、宙に浮いた二体の幻獣騎兵と冥邪王たちは互いに牽制しあっていた。猛烈な闘争本能の鬩ぎ合いが続く中、まず動き出したのは冥邪王のアブゾルドだ。
突然四つの厳めしい手甲の先端から凄まじい長さの妖気の剣が出現する。
「では、行くぞ!」
四枚の翼で力強く羽ばたかせ、驚くべき速さでゼラムファザードに急接近すると、そのまま荒ぶるような剣捌きで斬りかかった。
(なんて速さだ!?)
ゼラムファザードは重量感のある両刃鎗で受け流そうと踏ん張った。だが、持ち堪えられたのは三撃目までだった。
最後の斬撃が両刃鎗に当たった瞬間、あまりに強烈な威力にゼラムファザードは思いっ切り吹き飛ばされて、地面に激突する。
ナファネスクの全身に激しい鈍痛が走る。ただ、全身鎧に身を守られたおかげで骨には問題ないようだ。
「畜生! よくもやってくれたな!」
残念ながら、それ以上文句を言える状況ではなかった。アブゾルドが一気に詰め寄り、追い討ちをかけてきたからだ。瞬く間に四本の妖気の剣が一斉に振り下ろされる。
さすがに、これは避けるしかなかった。急いで起き上がったゼラムファザードは六枚の翼で上空に逃げ去った。一瞬遅れて全ての妖気の剣が荒々しく大地を寸断する。そこに僅かな隙が生じた。
「この一撃を喰らいやがれ!」
今しか反撃の機会はない。そんな焦燥感に駆られながらゼラムファザードは極限まで高めた獣気を両刃鎗に注ぎ込み、アブゾルドに放った。ところが、渾身の一撃だった獣気波は四本の妖気の剣に受け流されてしまった。
「嘘だろ!?」
それ以上言葉が出なかった。こうも簡単に防がれるとは思ってもみなかった。
「これが汝の本気か? 我をあまり失望させるなよ」
(冥邪のくせして好き勝手に言ってくれるじゃねぇか! 俺の本当の力はまだこんなものじゃないはずだ! それを思い知らせてやるぜ!)
形勢は圧倒的に不利だが、まだ負けたたわけではない。ナファネスクは自分の胸にそう言い聞かせた。
アブゾルドは四枚の翼を旋風が巻き起こるほど羽ばたかせ、上空に舞い上がった。すかさず驚異的な速度で突進してきた。息つく暇もなく、もう一度四本の妖気の剣による乱暴な連撃が繰り出される。ゼラムファザードは死力を尽くし、全ての攻撃を両刃鎗で防ぎ切った。
(よし! 全て止めてやったぜ!)
そこでナファネスクは安堵の息を漏らした。その一瞬の隙を見逃さず、アブゾルドの強烈な蹴りがゼラムファザードの胴体を突き飛ばした。体勢を大きく崩されたところに四本の妖気の剣が一斉に振り下ろされた。もはや両刃鎗で耐え凌ぐしかなかった。
獣気と妖気が激しくぶつかり合う中、またもや膂力で圧倒されたゼラムファザードは物凄い勢いで頭から地面に落下する。
勢いよく地面に激突した瞬間、軽い脳震盪を起こしたナファネスクの脳裏に敗北の二文字が浮かんだ。




