死闘の幕開け
「クッ、畜生!」
頭に血が上ったナファネスクは悔悟の念に蝕まれた。
「ナファネスク様!」
「ああ、分かってらぁ! まずは目障りなお前らを叩き斬ってやる!」
オルデンヴァルトの呼びかけに答えると、向こう見ずな少年は目の前に立ちはだかる二体の冥邪を鋭い眼光で睨みつけた。
迂闊にもカサレラを連れ去られてしまった以上、残された道は冥邪天帝ヴェラルドゥンガの依り代になる前に救い出すしかない。そのためには一分一秒でも早く二体の巨大な冥邪どもを屠る必要があった。
臨戦態勢を整えるべく、ナファネスクは冥邪どもから少し遠のいた。その後で二体の冥邪を隈なく観察する。
向かって左側の冥邪は二対四枚の大きな翼を生やし、四本の腕と二本の足があった。全ての腕に厳めしい手甲を嵌めている。短い毛で覆われた全身に鎧を纏い、顔は怪物のそれだ。
反対側の冥邪は一対二枚の翼を持ち、全身は巨大な蛇のような姿で途方もなく長い。二本の前足と二本の後ろ足があり、全ての足に鋭い爪が生えている。顔は野獣のそれだ。
「汝が無疆の獣気を持つ者か?」
四本の腕を持つ冥邪がナファネスクに声をかけてきた。
「我は百体いる冥邪王の一体であり、名はアブゾルド。我が欲するは強く、気高き者との戦いのみ。さぁ、我と剣を交えよ!」
「いい度胸じゃねぇか! さっさとかかって来な!」
先ほどからナファネスクの心には憤怒の炎が燃え上がっていた。まずは敵を斃すことだけに意識を集中させる。
「ならば、残りものは我が頂こうか。我も百体いる冥邪王の一体であり、名はエラゾルベ。汝ごとき、即刻始末してやろう!」
「フッ、俺も甘く見られたものだ。これでも《飛翔の戦神》と呼ばれた者として、全身全霊で相手になろう!」
オルデンヴァルトもすでに意を決したようだ。
「ゼラム、さぁ、獣霊降臨だ!」
【承知した。死にたくなければ、全力でかかれ!】
壊神竜の忠告めいた声が脳に直接伝わってきた。すると、金色の巨竜がナファネスクの体に舞い降りた。その直後、三対六枚の翼を生やし、巨竜と同じ色の幻獣騎兵ゼラムファザードとなる。右手には重量感のある両刃鎗を持っていた。
オルデンヴァルトも即座に紫電鳥の獣霊と融合して、深紫色の全身鎧で身を覆った幻獣騎兵アシュトロアに姿を変えていた。
それぞれの翼を羽ばたかせて上空に舞い上がった。
ゼラムファザードはアブゾルドと、アシュトロアはエラゾルベと対峙する。
(この戦いだけは絶対に負けられねぇ! どんなことがあっても勝ってやる!)
ナファネスクは自分の命を賭してまで課した誓いを破ってしまったことを呪わずにはいられなかった。事ここに至っては全ての敵を斃して、カサレラを無事に救出することでしか自分を許すことができないだろうと思った。
(待っていろよ! カサレラ!)
今まさに壮絶な死闘の火蓋が切って落とされようとしていた。




