父親の逆鱗に触れる
「分からないことをいくら考えても仕方ねぇか!」
悪夢について思考を巡らせている間に、濡れた上半身は日の光で乾かされた。
革製の靴を履くと、ナファネスクは替えのない肌着を着て、ハクニャを連れて家路に着いた。
ナファネスクとハクニャが我が家に戻ったとき、不意に父親の気配を感じた。振り向く間もなく、物凄い怒号が轟いた。
「ナファネスク! お前、今の今までどこをほっつき歩いていた! 何故朝稽古に来なかったんだ!」
父親は紛れもなく怒り心頭に発していた。
当然のことだが、背丈はナファネスクよりもさらに高い。服を着ていても、がっしりとした頑強な肉体なのはすぐに分かる。その片手には槍のようなとても長い棒を握り持っていた。
「それは……朝の分は夜に倍やるからさ。それでいいだろ?」
「なんだ、その生意気な態度は! お前、ここのところ性根が弛んでるぞ!」
父親の怒りは収まらない。逆に、火に油を注いでしまったようだ。
事実、最近毎朝毎晩の稽古に対してのやる気が緩んでいるのは自分でも気付いていた。
父親のやる鍛錬はとても厳しかった。普通の子供なら、そのあまりの過酷さにすぐに悲鳴を上げるはずだ。だが、自分は負けないという気概があった。
今まで歯を食いしばり、しゃにむに食らいついていった。三年前、霊峰マハバリ山で父親が口にした冥邪の存在しない世界に作るために――。
ただ、この村はとても平穏で、冥邪など一度も目にしたことがない。それなのに、どうして血の吐くような稽古をしなければいけないのか、正直分からなくなっていた。
「だったら、訊くけどよ。いったいいつになったら、冥邪どもを退治しに行くのさ! この村には冥邪なんか現れない! 体を鍛える必要なんてないんだ! そうだろう?」
父親は少し失望したように顔を横に振った。
「やれやれ、未だに冥邪がこの村に現れない理由にも気付いてなかったとはな」
「な、何だよ、それ!」
あからさまな父親の落胆した態度に、ナファネスクはむかっ腹が立った。
「その続きは、わしから話したほうが良さそうじゃのう」
突然しわがれた声とともに、齢七十を過ぎようとしている風格のある老人が現れた。




