冥邪の群れ
「ナファネスク様!」
オルデンヴァルトの操る荷馬車が追いついてきた。素早く御者台から降りると、その手には幻獣騎兵のときに使う弩が一挺ずつ握られていた。
「あれはラダゴンという冥邪で、俺たちを川に引きずり込もうとします。それと、あいつらの目には十分に注意してください!」
ナファネスクに近づくと、オルデンヴァルトはこの冥邪に関する知識を伝えた。
「分かったよ! 要はとっとと叩きのめせばいいってことだろう!」
先ほどのエステラルテの街での諍いによるモヤモヤも相俟って、鬱憤を晴らせる絶好の機会だと思っていた。
ラダゴンどもは新たな獲物を始末するため、ナファネスクたちのほうにぞろぞろと集まって来た。
敵の数は全部で十体ほど。その上、ラダゴンの口から吐き出す瘴気により、冥邪憑きに変貌した人々が腐臭を漂わせながら餌を探して彷徨っていた。
「こんな奴ら、俺らにかかればわけねぇぜ! 行くぞ!」
ナファネスクは左端にいる二体に狙いを定めて駆け出した。それに対して、ラダゴンどもは同時に銛に似た形の槍を投げてくる。
「そんなの喰らうかよ!」
獣気を帯びた両刃鎗を巧みに回転させて銛を弾き返すと、ナファネスクは俊敏な動きで一足飛びに跳躍した。そのまま両手を使って両刃鎗を力いっぱいに薙ぎ払う。
二体のラダゴンは薄紫色の血を大量に噴き上げて、横一線に斬り殺された。
「ざまぁ見やがれ!」
余裕の笑みを浮かべたものの、すぐに右手から妖気を感じ取った。振り向くと、近くにいたラダゴンの口から妖気の玉が吐き出されようとしていた。それでも、寸前で獣気の矢によって頭部が呆気なく吹き飛ばされる。さらにオルデンヴァルトのもう一挺の弩から放たれた獣気の矢が別のラダゴンの胴体を撃ち抜く。残るは六体。
「まだ敵のほうが多勢です! 気を抜かないでください!」
「ああ、すまねぇ!」
今のは明らかに自分の不注意だった。素直にオルデンヴァルトの忠告を受け入れた。
次の獲物を見定めているときだ。ある荷馬車の上に乗ったまま、微動だにしないラダゴンがいた。ナファネスクはあれが親玉だと確信した。
群れをなす生き物は頼りになるリーダーを失うと自然と瓦解するものだ。次に屠る獲物には持ってこいだった。
不意にラダゴンの親玉と視線がぶつかり合った。まるでそれを待っていたかのようにじっとこちらを見つめている。
「ナファネスク様、その目を見てはダメです!」
オルデンヴァルトの警告は一瞬遅かった。その前に、ラダゴンの親玉の両方の目が眩い光を発したからだ。それを正面から見てしまったナファネスクは周囲の視界がぼやけ、眩暈で頭がクラクラした。
「うっ! なんなんだ、これは!?」
耐え切れずに地面に両手を着いて、嘔吐した。その直後、遠くから妖気の反応を感じた。




