襲撃されたキャラバン隊
時刻は正午を少し過ぎていた。雲間から日の光が射し込む中、時折爽やかな風が吹き抜けていった。
ナファネスクたちは野営するための品物を荷台に乗せた後、次なる目的地に向かってすぐにエステラルテの街を出た。
無駄に長居すれば、前回のウールジークの街で起こった災難の火の粉がまた降りかからないとも限らない。そうなれば、カサレラにまた嫌な思いをさせることになる。
荷馬車から愛馬である一角獣のホーテンショーに乗り移ったナファネスクは、右手で持っていた細くて長いパンの最後の一口を頬張った。それが今日の昼ご飯だった。
オルデンヴァルトはこうなることを想定して、食料は多めに買っておいたと言っていた。
土が露出した道はずっと続いていた。道があるなら、これから行く先にはまた別の街があるはずだ。だが、そこには立ち寄らないらしい。
この旅の目的が冥邪天帝ヴェラルドゥンガの顕現を防ぐことである以上、早く終わらせるに越したことはなかった。ただそれ以外にも、オルデンヴァルトには旅を急ぐ理由があった。
ナファネスクたちは既に二回も冥邪王を斃していた。さすがに帝国も今度は何かしらの策を講じてくるに違いない。
大願成就させるためならば、手段は厭わないはずだ。要は帝国からの手先を斃せば斃すほどどんどん戦いは苦しいものになっていく。そう判断したのだ。
しばらくすると、行く先を大きな川が流れていた。仕方なく、ナファネスクたちは橋を探しながら方向を変える。さらに少し進んで行くと、視界の先に大きなキャラバン隊が見えてきた。
様子が少し変だとナファネスクは直観で感じた。キャラバン隊はこんな場所で止まっているようだった。近づいて行くにつれ、男女の叫び声が聞こえてきた。
「今の悲鳴じゃねぇのか? なぁ、お前らも聞こえただろ? 急いで駆けつけるぞ!」
危機感から荒々しく声を張り上げると、ホーテンショーの手綱を強く引いて疾駆させる。
「ナファネスク様、お一人では危険です!」
背後からオルデンヴァルトの制止を促す声が聞こえはしたが、ナファネスクが止まることはなかった。ここに来て、向こう見ずな少年の悪い癖が出た。
大量の品物を積んだ複数の荷馬車に近づくにつれ、周囲の惨状が見えてきた。
人間の大人よりも頭一つ分ほど大きな半魚人のような姿をした冥邪が銛のような投げ槍で次々と人を突き刺していた。女や子供を問わずに。その上、殺した人間の肉を食べている奴もいた。
「お、おい、助けてくれ……」
地面を這いずりながら、片足に傷を負ったキャラバン隊の用心棒らしき男が苦しそうな顔でナファネスクを見上げていた。次の瞬間、その男の背中を投げ槍が貫通した。血しぶきが飛び散る中、用心棒らしき男は口から血を流しながら息絶えた。
「クソ! 絶対に許せさねぇぞ、冥邪ども!」
すかさずホーテンショーが飛び降りると、ナファネスクは憤激を露わにした。
「ゼラム、今すぐ獣霊降臨だ!」
【そこまでする必要はない。あれくらいの下等な冥邪など武器召喚で済ませろ】
冥邪となると目の色を変える壊神竜らしくない言葉が脳に響いてきた。
「武器召喚?」
向こう見ずな少年が問い返す間もなく、右手に重量感のある両刃鎗が現れた。
「これさえありゃ、十分だ! 冥邪どもを残らずぶった斬ってやるぜ!」




