街のならず者
「おい、ガキども! イチャイチャして随分と楽しそうじゃねぇか!」
突如品の欠片もない声が二人の楽しい時間を引き裂いた。ナファネスクは怒りを露わにして振り向くと、路地の陰で二十代後半の質の悪そうな四人のならず者たちがヘラヘラとしながら立っていた。そのうちの三人は片手に短剣を持って、チラつかせている。
「見たところ、どこぞの貴族のお坊ちゃまって感じだな。隣にいるお嬢ちゃんは滅多にお目にかかれない上玉ときてる! 今日の俺たちは運がいいみてぇだぜ!」
連中を仕切る指示役の男は二人を品定めしながら下品な笑い声を上げた。
「なんだ? ゲス野郎ども!」
ナファネスクは二人きりの大切なひと時を邪魔されて、いきり立っていた。すぐさま御者台から飛び降りて、ならず者たちの前に立つ。
「おい、今の聞いたか? 貴族のお坊ちゃまにしてはなんて口汚い言葉使いなんだ。親の顔が見てみてぇぜ!」
指示役の男の言葉に、残りの手下どもはゲラゲラと笑い声を上げる。
「いいか、よく聞けよ! 世間知らずのお坊ちゃま。こいつらが手に持ってる短剣が見えてるだろ? 大人しく有り金を全部寄こしな! さもねぇと、痛い目を見ることになるぜ!」
「何を言い出すかと思えば、笑わせてくれるぜ!」
ナファネスクは小馬鹿にしたように嘲笑を浮かべた。
「最初に言っといてやるが、止めといたほうが身のためだぜ! 俺にコテンパンにのされたくなかったらな!」
「何だと!? おい、ガキ、少しは恐ろしい目に遭わないと分からねぇようだな!」
ナファネスクの挑発が頭に来たのか、今までおちゃらけていたならず者たちの目の色が急に変わる。だが、不意に手下どもの一人がそっと身を引いた。
「このガキの腰元を見てみろ! 剣なんかを持ってやがるぜ!」
声を上げた手下が指を差した先には宝剣が見えた。
「こりゃいいね! 破格の高値で売れそうじゃねぇか! あんなのただのお飾りに決まってるだろ! ビビらずにやっちまえ!」
指示役の男の命令に従い、三人の手下どもは短剣を振り翳しながら一斉に襲いかかってきた。
どう見ても、相手は実戦のイロハも知らないならず者たちだ。これまで血反吐を吐くほどの厳しい鍛錬を積んできたナファネスクの相手ではなかった。
まずは人並外れた動体視力で手下どもの動きをよく見定めた。次いで、三人からほぼ同時に繰り出される攻撃を次々に躱しては素早く反撃して返り討ちにしていく。
重みのある連打に手下どもは滅多打ちにされ、次々と地面に倒れ込んだ。少年とは思えない圧倒的な強さを目の当たりにして、指示役の男は恐怖に慄き、尻餅をついた。そのときだ。
「ナファネスク様!」
オルデンヴァルトが荷物を両手に抱えて戻ってきた。
「おい、お前ら、ここはずらかるぞ! ほら、早く起き上がれ!」
薄情にも、指示役の男は仲間を見捨てて一目散に逃げ出した。こっ酷く痛めつけられた手下どもは足を引きずりながらその後を追いかけていった。
「お怪我はないですか?」
すかさず急ぎ足で駆けつけて来たオルデンヴァルトの言葉に、ナファネスクは無性に憤りを覚えた。
「俺があんなゲス野郎どもにやられるわけねぇだろ!」
ナファネスクは言葉を吐き捨てると、足早に御者台に戻っていった。
せっかくの二人きりの大切な時間を邪魔されたのだ。何ともやり場のない苛立ちに駆られていた。




