癒しの花園
街の門を通過する前に、ナファネスクは前のときと同じく目立つ一角獣のホーテンショーを野に解き放った。それから、オルデンヴァルトの荷馬車の御者台に乗り移った。御者台は再びぎゅうぎゅう詰めになった。
エステラルテの街に入ると、一目散に商店が密集する広場に向かった。この街には買い物をするために立ち寄っただけだからだ。泊まる気もなかった。
「よしよし」
オルデンヴァルトは広場の手前で荷馬車を止めた。そのまま御者台を降りる。
「俺はこれから野宿に必要なものを買い揃えに行ってきます。その間、二人は馬車で待っててください」
それだけ言い残すと、オルデンヴァルトは足早に買い出しに向かった。その後ろ姿を見送りながら、留守番を任された二人はぎこちなさそうにしていた。
二人きりになった途端、急に張り詰めた空気が漂い始めた。
(何をそわそわしてるんだよ! ちょっとばかり前に戻っただけじゃねぇか!)
ナファネスクは何か話題を探そうと一生懸命脳みそを働かせた。とは言っても、今まで嫌な目に合わされてきたカサレラになんて話しかけるべきか迷った。
「あのさ、お前、花は好きか?」
「は? いきなり何よ、それ?」
突然の問いかけにカサレラは呆気にとられた顔を見せた。
ナファネスク本人も素っ頓狂なことを言っているのは十分に分かっていた。どんなに考えを巡らせても、他に話す事柄が見つからなかっただけだ。
「いいから答えろよ」
「もちろん、好きよ」カサレラの顔に笑みが零れた。
「あたしの村にはとても大きなお花畑があってね。その日の記憶を何もかも忘れさせてくれる憩いの場所だったの。特に、嫌なことにあった日なんかはあたしの心を優しく包み込むように癒してくれた。多分一生忘れられない、あたしの思い出の詰まった素敵な花園よ」
「へぇ。よっぽど良い場所だったんだな」
しんみりと思い出深く話すカサレラの姿に胸を強く打たれた。できることなら、一緒に見てみたかったとさえ思った。
「ねぇ、ナファネスク。あんたも花が好きなの?」
「え? 俺は……その……」
さすがにここで好きじゃないとは言えない。ナファネスクは返答に困った。
「いえ、答えなくていいわ。あんたが花を好きなわけないもんね」
「なんでだよ。好きかもしれねぇだろ!」
「あんたが? 花を? 何かおかしい!」
カサレラも今度は大声で笑った。その可憐な笑い顔を見られるだけで、向こう見ずな少年の心は自然と満たされた。




