獄淵界に通じる扉
土が露出した道を真っすぐ進みながら、ナファネスクたちはオルデンヴァルトの案で次なる街に向かっていた。
一角獣の愛馬ホーテンショーに乗るナファネスクと馬車の御者台に座るオルデンヴァルトと聖獣の焔豹のハクニャを抱くカサレラだ。
次の街に立ち寄る理由は野宿をするために必要な食料と道具を買うためだった。それからは北東の森林地帯へ向かう予定だと聡明な元騎士は告げた。
ここまで来る間に、ナファネスクはどんな手段で馬車を入手したのかを尋ねた。
オルデンヴァルトが言うには、代々受け継がれてきた貴重な指輪を売り払って手に入れたということだった。まだ残ったお金が幾らかあるとも付け加えていた。
土が露出した道の両側には広大な平原が広がっていた。
「なぁ、次の街に行った後、なんでわざわざその森に向かうんだ?」
オルデンヴァルトはこの周辺一帯に土地勘があるのは十分に分かった。それでも、道なりに進めるなら、そのほうが良いに決まっている。
「それはですね。森林の奥深くに古代の偉大な魔導師が作ったとされる《異空間転移の門》と呼ばれるものがあるんです」
「《異空間転移の門》?」
ナファネスクは聞きなれない言葉を聞き返した。
「はい。分かりやすく言うなら、特殊な暗号を入力することで遠く離れたところに一瞬にして転移させてくれる装置の名前です。しかも、五、六人ぐらいまでなら一度に同じ場所まで移動させることも可能なんです。まぁ、言葉で説明するよりも見たほうがしっくりときますよ」
「なるほどな。それで、その《異空間転移の門》ってやつを使ってどこに行くんだ?」
「帝国によって滅亡させられた祖国アルメスト王国の王城だったエスカトロン城です」
「なんだって!?」
思いも寄らない言葉にナファネスクは驚きを隠せない。まさか侵略されたアルメスト王国の王城に向かうとは思ってもみなかった。
「ねぇ、どうして滅ぼされた国の王城なんかに向かうの?」
ハクニャをあやしながらカサレラが不思議そうに問い返す。
「それはね、おそらくだけど、そこに帝国の皇帝と宮廷魔導師がいるからだよ」
「おい、ちょっと待てよ! なんでそんなことが分かるんだよ?」
ナファネスクは全てをお見通しのように断言するオルデンヴァルトに食ってかかった。その根拠が知りたかった。
「それはですね。今は空が曇ってて少し見えにくいのですが、ここから東の空の彼方に緋色をした円形状の空洞みたいものが見えませんか?」
動じた素振りも見せず、オルデンヴァルトは右手の人差し指である特定の場所を指差した。
ナファネスクも視力に関してはそれなりに良いほうだと自負していた。それでも、何となく見て取れるぐらいだった。
「あれがどうしたって言うんだ?」
明らかに不自然だったし、不気味なものに見えた。ナファネスクはその異質な空洞の正体を知りたくなり、話を先に進めるように促した。
「あの緋色をした空洞こそが獄淵界に通じる扉だと俺は確信しています。今まであんな異様なものは存在しませんでしたから」
思わず絶句した。到底信じ難い話だ。だが、オルデンヴァルトは意にも介さず、さらに話を続けた。
「それで、あの緋色の空洞のほぼ真下に位置しているのがエスカトロン城ってわけです。その結果、さっきの推測を言ったまでです」
「マジかよ!?」
何とも仰天する話だが、有無を言わせない説得力のある力説だった。それにしても、場所が遠すぎた。《異空間転移の門》と呼ばれる装置でも使わなければ、余裕で一カ月は旅する羽目になっていただろう。




