空白の十二年
「元王子だけどな。でも、どうして俺のことを知ってるんだ?」
不意に畏まると、浮浪者じみた男は騎士みたいに片膝をついて傅いた。
「おお、これこそ天が与えて下さった宿命! 申し遅れましたが、俺はアルメスト王国に長年仕えてきた五大英雄神の一人で、オルデンヴァルトと言います!」
滅亡したアルメスト王国の五大英雄神と言えば、父親代わりだったエゼルベルクと並び立つ名高い騎士ということだ。だが、見た目からは全く想像できなかった。
「口から出まかせを言うんじゃねぇ! あんたみてぇな浮浪者が俺の父さんと同じ偉大な騎士だって言うのかよ! そんなの信じられるもんか!」
「仰りたいことは分かります。こんな見窄らしい恰好をした男の言葉など疑いたくなるのも無理はありません。ですが、これは紛れもない事実なんです! 俺はあなた様の父親代わりをしていたエゼルベルクと肩を並べる騎士だったんです!」
オルデンヴァルトは力強い口調で言い張った。ナファネスクは父親の名前が出たことで少しだけ信じることにした。
「分かったよ。取りあえず、恥ずかしいから立てよ」
「は、はい」
オルデンヴァルトは促されるままに立ち上がった。再度ナファネスクが口を開く。
「仮に百歩譲ったとして、大きな疑問がある。十年以上も昔に帝国と戦ったあんたがどうして浮浪者のような姿でこの街にいるんだよ?」
手厳しい追及に対し、オルデンヴァルトは重々しく息を吐いた。
「十二年前の、あのときの記憶は今でも脳裏に焼きついています」
悔しそうに唇を強く嚙み締めた。次いで、空白の十二年間の人生について話し始めた。
「帝国軍率いる冥邪たちとの戦いで致命的な傷を負った俺は、国王直々のご命令で戦線離脱を余儀なくされました。だが、無念にもアルメスト王国は帝国軍に滅されてしまった。俺は祖国再興を悲願に傷が癒えるまで身を隠してました。歳月が流れ、完治した俺はあなた様を助けるために王国を去ったエゼルベルクのことを思い出し、二人が逃げ延びたと思われる農村を探し出して足を運びました。ですが、そこの村長に『まだ時期尚早である! 時が来るまで待つがよい!』とあっさり門限払いされてしまったんです。それから先は何も良い手段を見出せないまま、世の中の何もかも全てに打ちひしがれた俺は失意のうちにこのような嘆かわしい姿へと変わり果ててしまったというわけです」
真摯な眼差しで話す浮浪者じみた男は間違いなく真実を語っていた。
「オルデンヴァルト、見た目だけであんたを疑って悪かったな」
今の話が作り話だと思えなかったナファネスクは素直に謝った。




