謎の浮浪者
「俺も同じ人間が困っているときに自分さえ良ければいいとでも言うような薄情な物言いには正直反吐が出る。とは言え、いきなり暴力を振り回すってのも良くないな」
沈黙を破るように男の声が聞こえてきた。今度はその声の主に群衆の注目が集まる。
歳は三十代後半。パッとしないくたびれた服装で、むさ苦しい無精ひげに髪を背中まで長く伸ばした一見浮浪者のようだ。
またもや群衆から「汚らわしい身なりで何様のつもりだ!」とか「浮浪者の分際で偉そうに出しゃばるな!」とか罵倒する声が上がる。
浮浪者は街のゴミでしかない。男はボロクソに貶されていた。
「なんだ、あいつは?」
「そんなのどうだっていいじゃない! 警備兵に連れ出される前に、人混みに紛れて抜け出すわよ!」
浮浪者など無視し、カサレラは群衆を無理やりかき分けていく。一秒でも早くここから逃げ出したい気持ちなのだろうと感じ取った。
「ああ、こんな胸くそ悪い街なんかこっちから出て行ってやるぜ!」
警備兵の目をかい潜りながら広場から抜け出して、街の北門に向かっていたときだった。
「君たち、ちょっと待ってくれないか」
いきなり背後から呼び止められた。振り返ると、先ほどの浮浪者じみた男が走り寄ってきた。
背はナファネスクより高く、細身だが、浮浪者とは思えない引き締まった体つきをしている。
「俺らに何の用だ? 浮浪者さんよ」
苛立っていたナファネスクが不躾に問いかけた瞬間、その男はナファネスクの豪奢な衣服を力強く掴んできた。すると、すぐに傍らにいたハクニャが毛を逆立てて、激しく威嚇する。
「少年、この服はどこで手に入れたんだ?」
ナファネスクの着ている服を驚愕の眼差しで見つめている。
「あんた、人聞きの悪いことを言ってんじゃねぇ! これは俺の父さんから託されたものだ!」
「父さんに託された!? そ、その父親の名前を教えてくれないか?」
「は?」
(なんだ、この浮浪者?)
ナファネスクは怪しむような眼差しで男を睨みつける。
「あの、赤の他人のあなたがどうしてそんなことを聞くんですか?」
今度はカサレラが厳しい口調で問い返した。
「そ、それは……ここではちょっと……」
男は言い出しにくそうに口ごもる。
「さっき広場で見たとおり、あたしたちは急いでるんです! ナファネスク、早く行かないと!」
「ナファネスク!? あなた様はもしかしてナファネスク王子なのですか?」
少年の名前を聞いた瞬間、浮浪者じみた男は何故か感極まった顔をする。




