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ラッシュレックレス  作者: 檜鶯盈月
第1章 暴かれた真実
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悪夢

 雲一つない快晴の青空の下、石造りの壁で覆われた馴染みのない部屋に日の光が燦々(さんさん)と降り注がれていた。開け放たれた窓からは時折清々しい風が吹き抜けていく。

「あんた、不治の病だよ」

 ベッドに横たわる自分に対して、全身真っ白い衣服を来た初老の男が素っ気ない口調で宣告した。


「不治の病だって!? おい、悪い冗談はやめろよ!」

 言い返したものの、戸惑いは隠せない。

「いや、あんたはもう助からないな」

 初老の男の嘘偽りのない言葉に愕然(がくぜん)とうな垂れた。どう考えても信じられなかった。


 自分についてよくよく思い返してみた。自分が何者なのか、自分は何歳なのかと――。

 思わず顔面蒼白になる。どれ一つ取っても、はっきりとは思い出せなかったからだ。自分はいったい誰なのだという疑問すら沸き起こる。


「ところで、お前は何者なんだ?」

 一番知りたかった疑問を口にした。

「わしはあんたをあの世へと導く者だ」

「あの世だと!? ふざけるな!」

 訳が分からないことだらけで、自然と口調が荒々しくなる。


「余命は? 俺は後どのくらい生きられるんだ?」

(こんなの絶対に何かの間違いだ!)

 自分の心に言い含めながらも、内面から沸々と湧き上がる苛立ちは隠せなかった。

「まぁ、長くて残り一カ月ってところだな」

 相変わらず初老の男は素っ気ない口調で答えた。

「たったの一カ月……そんなに短いのか?」

 次々と告げられる衝撃的な事実に心が折れ、今にもショック死するのではないかと錯覚するほどだ。


「まぁ、そんなに落ち込まなくてもいい」

 何が楽しいのかは分からないが、不気味ににやけた顔で言い放った。すると、真っ白だった衣服が血の色のような赤黒い色に変わっていく。


 その変色が終わったとき、初老の男は両目を大きく見開いた。止めの一撃とばかりに驚愕の言葉を発した。

「あんたのせいで、この世界は滅びるのだからな!」


 ナファネスクは両目を開けた瞬間、思わずガバッとベッドから飛び起きた。首筋や全身から冷や汗がダラダラと(したた)り落ちる。

 体中が汗でベタベタして気持ち悪い。肌着もびっしょりと汗が染みている。

「また、この夢か――」

 最近になって、ナファネスクは繰り返して見る悪夢にうなされていた。毎朝目覚めるたびに部屋を見渡し、自分の部屋だと分かって安心するのが恒例行事になっている。


 時間は分からないが、まだ明け方なのは間違いない。

「ミャー!」

 大きくなった焔豹(ケマール)のハクニャが布団に駆け上ってきて、ナファネスクの顔を舐め始めた。

「おはよう、ハクニャ」

 目が完全に覚めるまでの少しの間、ハクニャの頭を優しく撫でた。

「さぁ、お前も来い!」

 ナファネスクは薄い掛け布団を()ぎ取り、床に置かれた革製の靴を履いた。そのまま銀色の短髪を掻きながら自室のドアを開けた。


 居間に父親の姿はなかった。いつものように朝の鍛錬だろうと思い、家のドアを開けて外に出た。ハクニャも後ろから着いて来る。


 ナファネスクは心地いい風を全身に浴びながら、近くの河原を目指した。


 歩きながら、毎晩のように続けて見る悪夢の元凶を探っていた。

 残された寿命は一カ月で、それよりも前にこの世界は自分のせいで滅びるという言葉の意味するところが全く分からなかった。


 体調は至って健康。この周辺で流行り病が発生したという話も聞かない。


 考えられるとすれば、突然正体不明の難病に(おか)されるということだ。だが、それとこの世が破滅するのと何がどう結びつくのだろうか。


 河原までやって来たナファネスクはすぐに汗の染みついた肌着を脱ぎ捨て、上半身だけ裸になった。ズボンの裾を膝下まで(まく)り上げると、裸足になって緩やかな流れの浅瀬に入っていく。


 ハクニャはと言えば、川岸で寝転んでいた。


「冷てぇー! こりゃ気持ちいいぜ!」

 壊神(かいしん)竜ゼラムファザードを魂に宿して、約三年が過ぎようとしていた。背は見る見るうちに並みの大人ぐらいにまで伸び、しなやかで強靭な体つきに鍛え上げられていた。


 浅瀬の清らかな水で嫌な汗を流すと、河原を出た。すぐに陽光が照らす地面に座った。


 上半身を自然乾燥で乾かしながら、ナファネスクは至って健康体の自分の体を見た。


 どう見ても後一カ月足らずで死ぬようには思えなかった。だったら、あの夢は何に対する警鐘(けいしょう)なのだろうか。結局今までと同じで、謎は謎のままだった。


「分からないことをいくら考えても仕方ねぇか!」

 悪夢について思考を巡らせている間に、濡れた上半身は日の光で乾かされた。


 革製の靴を履くと、ナファネスクは替えのない肌着を着て、ハクニャを連れて家路に着いた。

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