過去の二の舞
「冥邪王よ! きっとあたしを捕まえに来たんだわ!」
押し殺した声で話す清廉な少女は焦燥感を露わにする。警備隊長はさらに続けた。
「冥邪はこの街にいるカサレラという名前の少女の身柄の引き渡しを要求してきた。大人しく従えば、街には何一つ危害は加えないそうだ。だが、今から四半時が経過しても、その少女を連れて来なかった場合は、この街を粉々に壊滅させると脅してきた」
一瞬にして群衆は恐怖で凝り固まった。誰もが血の気が失せた顔をしている。
「冗談じゃねぇ! 俺は、カサレラなんて名前の少女なんか知らねぇぞ!」
群衆の中から大きな声が上がった。大半の群衆が同意するように頷く。
「きっとこの街に住人じゃねぇ! 多分、よそ者だ! 警備隊長さんよ、早くそいつを見つけ出してくれ!」
その声に群衆からは「そうだ!」とか「早く探し出せ!」などの怒号が飛び交う。
「みんな、どうか落ち着いてくれ! 我々も全力で探している最中だ! もう少しだけ時間がほしい!」
警備隊長はどうにか群衆の不安を和らげようと必死だ。その直後だった。
「それ、あたしのことです!」
堪らずカサレラは右手を高々と上げた。群衆の視線が一気に集まる。
(これじゃあ、こいつが村から連れ去られたときと全く同じじゃねぇか!)
カサレラが今現在どんなに耐え難い気持ちでいるのかと察するだけで、胸が張り裂けるほど居たたまれなかった。
「すぐこの街から立ち去るので、皆さん、安心してください!」
カサレラが敢えて自分から名乗り出たのはこの一言を言うためだ。ところが、群衆の不安と恐怖から沸き起こる怨嗟の声は収まらない。
自分の姿が見えないのを良いことに「警備隊長、早くそいつを連れ出せ!」とか「さっさとこの街から出て行け!」などの身勝手極まりない罵声が飛び交う。
警備隊長も部下たちに何か指令を出していた。
「おい! 今言った卑怯者ども、姿を見せやがれ! この俺が全員ぶん殴ってやる!」
ナファネスクは周囲の人たちが思わず耳を塞ぎたくなるほどの大声を張り上げた。言葉では表現できない憤怒に支配されていた。
一瞬、喚き立てていた群衆が静まり返った。




