心からの贈り物
「まだ大して見てないじゃない。根気よく探さないと、見つかるものも見つからないわよ」
即座にカサレラが宥める。
「古書などを取り扱うお店になら、置いてあるんじゃない?」
「古書を売る店ねぇ……」
ナファネスクは周囲を一通り見渡してみた。あいにくだが、書物などを商売にしていそうな店は見当たらなかった。ちょうどそのとき、ある店が視界に入った。
「おい、カサレラ。ちょっと俺に着いて来い!」
気持ちを昂揚させて、ナファネスクは走り出した。清廉な少女の手を引っ張りながら。
「何? 急にどうしたのよ?」
いきなり手を握られたカサレラは気恥ずかしそうに着いていく。
たどり着いた店は、街に根付いた店ではなく、露天商だった。並べられているのは女性用の装飾品だった。
「ちょっと、地図とは全く関係ないじゃない!」
「ああ、そうだ!」
「そうだって!? あんたねぇ、いったい何を考えてるのよ?」
中年の行商人は二人に目をやると、露骨に不機嫌な顔をする。
「なんだ、ガキども! ここに並べてある商品は全て大枚を叩かなけりゃ手に入らない高級品ばかりだ! 金のない奴はあっちに行け!」
「金ならあるぜ! ほら!」
ナファネスクは腰帯から下げたはち切れんばかりの巾着袋を見せつけた。
「おっと、こりゃ失礼しました。それで、どれをご所望でしょうか?」
大金を目にした行商人の態度が豹変した。しきりに媚び諂ってみせる。
宿屋のときは危うく泥棒扱いされたが、この行商人は誰の金でも手に入ればそれで構わないようだ。
「ねぇ、いきなりどうしたのよ? 早く地図を探しに行きましょ!」
この露天商にやって来た目的が分からないカサレラは、ナファネスクの服の袖を何度も強く引っ張った。だが、簡単に振り解かれる。
「カサレラ、実はお前に何か贈り物がしたいって思ってたんだ!」
「え?」
思いも寄らない言葉に、カサレラは驚きを隠せないようだ。
「この店を見つけられたのも何かの縁だ! さぁ、ここにあるものの中から一番欲しいものを選んでくれ!」
「べ、別にいらないわよ。それに、あたしなんかのために大切なお金を使わないで」
ナファネスクの気持ちは心から嬉しかったが、こんなに値の張る装飾品を受け取るわけにはいかない。
「そうか。だったら、俺が勝手に選んじまうぞ!」
「だから、欲しくないって言ってるでしょ! ちゃんと人の話を聞いてるの?」
カサレラの言葉を聞き流し、小綺麗に並べられた商品を品定めする。
ナファネスク自身も、父親代わりのエゼルベルクがわざわざ用立ててくれたお金の使い道を間違っていることは、百も承知の上での決断だった。
それでも、悲運な運命に苛まれたカサレラを少しでも喜ばせたい。その一途な思いが激しく心を駆り立てた。もっと言えば、ここで渡せなければ、次がいつになるのか分からないという焦りもあった。
「なぁ、これなんかいいんじゃねぇか?」
ナファネスクは、宝石を散りばめた華麗な装飾が施された髪飾りを手に取る。
「あのねぇ、もう知らないから!」
カサレラはそっぽを向いている間に、行商人に代金を支払った。
「さぁ、この髪飾りを付けてくれないか?」
「あんた、本当に買ったの?」
ナファネスクは呆然とするカサレラの美しい髪につけてやった。
「なかなか似合ってるじゃねぇか! その髪飾りはお前のためにあるようなもんだな!」
一歩下がってカサレラを見つめながら、今までよりさらに増した可憐さに目を奪われた。




