不遇な過去
「……あたしは幼い頃に両親に捨てられた孤児でね。その村の教会で育てられたの。教会では神父様以外の人たちは全員あたしを忌み嫌っていたわ。陰口を叩かれたり、嫌がらせなんかは日常茶飯事で、生きてるのが本当に嫌になるほどだった」
どれだけ辛い日々を過ごしたのか想像できないが、カサレラの大きな瞳が悔し涙で潤む。
「冥邪王が村に現れたときに、あたしは滅骸師として戦う気だったわ。でも、あいつの目的は村を襲うことじゃなくて、あたしを連れ去ることだったの。その見返りとして、村の人たちを一人も殺さないって条件を出してきたのよ。それを聞いた途端、村人全員があたしに跪いて懇願してきたわ。今まで育ててくれた神父様も含めてね。本当に笑っちゃうでしょ? どうせあたしが死んだとしても、悲しむ人なんて誰もいないのよ!」
カサレラにすれば、忍耐の限界だったのだろう。大粒の涙を流して咽び泣いた。
ナファネスクは泣かせる気など更々なかった。カサレラをここまで苦しめた奴ら全員を心底恨んだ。恨みぬいた。そのときになって、出会った瞬間に芽吹いた特別な感情が本物だったと改めて実感した。
「悲しむ奴はいる!」
ナファネスクはきっぱりと言ってのけた。
「知った風な口を利かないでよ! あたしのことなんか何も知らないくせに! いったい誰が悲しむって言うの?」
「俺だ! 俺が悲しむ!」
向こう見ずな少年は力強く断言した。カサレラを見る眼差しは真剣そのものだった。
「あんたねぇ、自分が何を言ってるのか、本当に理解できてるの? もう訳分からない!」
真っ正直な顔で見つめてくるナファネスクの視線に耐え切れず、カサレラは顔を背けた。
これまで生きてきた中で、本心から心配してくれる人は裏切られた神父も含めて一人としていなかった。でも、今はいる。目の前にいるナファネスクだ。
「あんたって、呆れるほどバカね!」
カサレラは涙が止まらなかった。でも、先ほどまでの悲痛な涙とは違っていた。
「ああ、バカかもな」
このときばかりは否定しなかった。自分の思いを受け止めてほしかったからだ。
「お待たせしました!」
不意に料理をのせたトレイを器用に持ちながら、先ほどとは別の給仕係が現れた。
素早く料理を乗せた皿を二人の前に並べていく。それが終わると、当たり前のように料理の代金を求めてきた。ナファネスクは黙ってお金を入った巾着袋から支払った。
「それでは、ごゆっくりとお召し上がりください!」
軽く頭を下げると、給仕係は足早に去っていった。
ナファネスクには炙った分厚い肉と盛られたご飯、カサレラには焼いた鳥のモモ肉と野菜の盛り合わせが並べられていた。
「せっかく注文した料理だ。味わって食べようぜ!」
ナイフとホークがあったが、ナファネスクは使い方がよく分からなかった。仕方なく分厚い肉をホークで突き刺すと、口を大きく開けてかぶりつく。
「これすげぇ美味いな! カサレラ、お前も泣いてねぇで食えよ!」
あれほど楽しみにしていただけあって、とても満足だった。ご飯もがむしゃらに頬張る。
「ちょっと、恥ずかしい食べ方しないでよね!」
やっと泣き止んだカサレラも並べられた料理を口にした。あまりの美味しさに、食べ終わるまでの間二人は時間が過ぎ去るのを忘れているようだった。
料理を食べ終わった二人は充実感に満たされたまま《星雲の輝き》を出た。
夕闇の空を見上げると、もうすぐ日が沈もうとしていた。
ナファネスクとカサレラは足早に宿屋に戻ることにした。




