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壊神竜ゼラムファザード

「そろそろ姿を見せたらどうだ? もう気付いているのだろう?」

 不意に父親は、何もいない半円状の空洞に向かって言葉を投げた。少しの静寂が訪れた。


【人間の分際で、我の深き眠りの邪魔をするか?】

 低く唸るような声が脳に直接響いてきた。すると、広大無辺な空洞を埋め尽くさんばかりに巨大な何かが姿を現した。


 大きな両翼を折りたたみ、燦然(さんぜん)と輝く黄金の鱗で覆われている。次の瞬間、六本の雄々しい角を生やした顔をゆっくりともたげ、こちらを恨めしそうに()めつける。


「ド、ド、ドラゴンだ!?」

 思わず度肝を抜かれたナファネスクは尻餅をついた。


「ナファネスク、そんなに怖がらなくても大丈夫だ。私たちと違って、このドラゴンは実体を持ってないのだからな。このままでは危害を加える術がないのだ。獣霊(アルマ)と言って、見える者にしか見えない生き物なんだ」

「獣霊?」

 ナファネスクは恥じらいながら立ち上がり、ズボンをポンポンと(はた)いて砂埃(すなぼこり)を落とした。


【我は見世物ではないぞ、人間!】

 金色(こんじき)の巨竜の姿をした獣霊は酷く不機嫌そうに伝えてきた。


「もちろんだ、壊神(かいしん)竜ゼラムファザード。私たちがここにやって来たのにちゃんとした理由(わ け)がある。お前にとっても、悪い話ではないはずだ。何故なら、お前が長年探し求めていた存在(も の)を連れて来たのだからな」

【何だと!?】

 壊神竜は驚きと疑いの入り混じった声を上げた。


 父親はナファネスクの(かたわ)らに来ると中腰になり、両の手を両肩に乗せてきた。


「ここにいる私の息子こそ、お前の欲する無疆(むきょう)獣気(じゅうき)を秘めし者なのだ!」

 全ての生き物が帯びる気を人は獣気と呼ぶ。父親からそう教えられた。ちなみに、無疆とは無限と同じ意味だ。


 壊神竜はおもむろにナファネスクに顔を近づけてきた。何かを感じ取っているようだ。


【ふむ。言われてみれば、底知れぬ獣気を漂わせる子供だ。幼子よ、我に触れてみよ】

 壊神竜がゆっくりと顔を近づけてきた。獣霊とは言え、ドラゴンはドラゴンだ。


 荒波のように押し寄せる不安に耐え切れず、父親に助けを求めた。だが、肝心の父親は何も答えずに力強く頷くだけだった。仕方なく、おどおどしながら金色の巨竜の顔に触れた。


【では、我の合図とともに獣気を出してみろ】

「え?」

「ナファネスク、この前父さんが獣気の出し方は教えたぞ。あの通りにやってみろ!」

(そう言えば、不思議な力を出す方法を教えてもらったような……)

 そのときのことを思い出してみる。


【さぁ、始めるのだ!】

(えーと、意識を集中させて、自然や大地を全身に感じるんだっけ)

 霊峰マハバリ山といい、まさに大自然の真っ只中に身を置いている。容易に自然界と精神を融合できた。その直後、溢れんばかりの獣気がナファネスクから噴き出した。


【おお!? これぞまさに無疆の獣気よ! それでは幼子よ、今すぐ我と盟約を結ぼうぞ!】

「め、盟約?」

【我らが友となり、お前の魂を新たな寝床にさせてもらうことよ。さぁ!】

 壊神竜が伝える言葉に危険な臭いを感じた。自分の体を乗っ取られるのではないか。そんな身の毛のよだつ恐怖すら覚える。


(このままこのドラゴンの口車に乗ってもいいのかな? これが〝禁忌の申し子〟になるってこと?)

「ナファネスク、何も問題はない。さぁ、受け入れるんだ」

 父親の本当の目的がよく分からなかった。でも、父親の言葉には反論できない自分がいた。


 何だかはぐらかされているような気もするが、ナファネスクは頷いた。


【よし、決まりだな。我は壊神竜ゼラムファザード。これより先、お前の大いなる力となるであろう。共に忌むべき冥邪(めいじゃ)どもを(ほふ)ろうぞ!】

 歓喜に打ち震えた雄叫びを上げると、金色の巨竜の獣霊はナファネスクの小さい体内に吸い込まれるように入り込んでしまった。あっという間の出来事だった。

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