盗人扱い
ナファネスクたちはウールジークという街にやって来た。野党や冥邪からの緊急時の防衛のために周囲は高い壁で囲まれているが、広々とした街だ。
街に入る前に、一角獣のホーテンショーは一時的に野に解き放った。街中の注目の的になるのは必然だったからだ。
そうでなくても、目鼻立ちの整った美しい顔立ちと王侯貴族が着るような豪奢な服装で歩くナファネスクは周囲の人々から好奇の眼差しを向けられた。ヒソヒソと何か小声で話している大人たちもいた。
(周りの奴ら、何で俺を見てるんだ? そんなにこの恰好がおかしいのか?)
ナファネスクは急に赤ら顔になり、石畳で敷き詰められた道を足下に目をやりながら歩いていく。
「さっきから何を恥ずかしがってるのよ。あんた、王子なんでしょ? だったら、前を向いて堂々と歩いていればいいのよ」
ナファネスクの気持ちを察してか、カサレラが声をかけてきた。
「元王子だけどな」
平然とした顔でずっと隣を歩いてくれるカサレラには感謝した。とても心強かった。二人の後ろからは周囲を警戒しながら着いてくる焔豹のハクニャの姿があった。
(言われてみれば、こんな物怖じした姿は俺らしくねぇよな! カサレラの言うように周りの目なんか気にしなけりゃいいんだ! 笑いたい奴らは笑うがいいさ!)
開き直ったナファネスクは大きく胸を張った。次いで、これからの段取りを話し始めた。
「まずは宿屋を探さねぇとな。その後は、飯だ」
「分かったわ」
カサレラも異論はないようだ。
歩き続けること十数分。石造りで作られた建物が立ち並ぶ中、カサレラが宿屋らしき看板を見つけた。
「あそこにしない?」
清廉な少女の指差す場所に目を向けると、三階建ての建物があった。その看板には《豊穣の女将停》と書かれてある。
別段悪くなかった。そのままナファネスクたちはその宿屋に入っていく。
「いらっしゃいませ! 何名様で?」
受付のカウンターには女性ではなく、小太りの中年男が座っていた。退屈そうに読書をしている。
「二人だ。二部屋借りてぇ。できれば隣り合わせがいいな」
まだ子供の声に違和感を感じ取った店番の男はナファネスクたちを見た瞬間、あからさまに不審な目つきになる。
「お前ら、いったいなんの悪戯だ? ここは大人の来る場所だ! ガキはとっとと出て行け!」
いきなり頭ごなしに怒鳴りつけてきた。宿屋の名前とはかけ離れた態度だ。
「おい、オヤジ、子供だから宿屋に泊まれねぇってどういうことだよ! 宿賃だってちゃんと持ってるぜ! それで文句はねぇだろ!」
ぶっきらぼうな物言いは却って逆効果だった。店番の男は怖気づいている。
「ほ、本当にあるなら、は、早く見せてみろ!」
ナファネスクは「ほらよ!」と腰帯から下げたはち切れそうなほどの巾着袋をカウンターに放り投げた。
「こ、これは――!?」
店番の男は巾着袋の中を覗き見て、驚きのあまり腰を抜かした。どう見ても、子供が持つにしては大金だった。
ナファネスクの着ている豪奢な服装は高貴なものに見えなくもない。ただ、もし一流貴族の子供なら、こんなごく普通の宿屋に泊まるはずがなかった。
突如店番の男の脳裏を空恐ろしい考えが過った。もしかすると、大金の入ったこの巾着袋はどこかから盗み取ったものではないか、と思い込んだのだ。
太々しいガキならそれくらいやりかねないという確信めいたものがあった。




