一目惚れ
ナファネスクは腰帯に差した名も知らぬ宝剣を抜き、囚われの少女を助ける前に腐臭を放つ冥邪憑きと化した馬たちを始末した。
「おい、大丈夫か? 今すぐ檻から出してやるからな!」
嬉々として話しかけるが、依然として少女は無言だ。おそらく、怯えていて口が聞けないのだろうと勝手に思い込んだ。
(そりゃそうだよな。あんな化け物どもにずっと囲まれてたんだ。普通の女の子なら、怖くて堪らなかったに違いねぇ!)
鉄格子でできた檻には錠前がかかっていたが、切れ味の極めて高い王家伝来の宝剣の前では無用の長物だった。すぐに檻の錠前を破壊し、扉を開け放った。
「さぁ、早く出て来な! お前はもう自由の身だ!」
ナファネスクが手招きする。それでも、囚われの少女は微動だにしない。
(よっぽど恐ろしかったんだな。こういうときは優しく連れ出してやるのが男ってもんよ!)
農村で暮らしていたときは、父親代わりのエゼルベルク以外の村人とはこれと言ってあまり話さなかった。いや、毎日朝夕の厳しい稽古に疲れ果て、ほとんど話をする機会がなかったと言ったほうがいいかもしれない。
それに加えて、農村に住む同い年ぐらいの子供たちからはよそ者扱いされ、どことなく敬遠されていた。特に女の子とは全くと言っていいほど話したことがない。
ナファネスクは鉄格子の檻の中へ入ると、一言も発せずに座り込んだままの同年代の少女に歩み寄っていく。改めてよく見ると、少女の服装は今まで目にしたことがないものだった。
農民が着るような粗末なものではなく、上品で清純さが感じられる。ただ、スカートの丈は膝までしかなく、ほっそりとした美しい素足を覗かせていた。首からはふくよかな胸の谷間に挟まれるように太陽を彷彿とさせる大きな首飾りがかけられている。
俯いていたのでずっと見えなかったが、美しい金髪を肩まで伸ばした少女の見目麗しい顔を目にした途端、ナファネスクは急に鼓動が高鳴り始めた。
(なんて可愛さなんだ!)
物心がついて以来、こんなに可憐で清淑な女性と巡り合う機会はなかった。これこそまさに運命の巡り合わせだと絶対的な確信に至るほどに。その瞬間、今まで抱いたことのない特別な感情が心に芽生えた。
おそらく、一目惚れとはこういうことを言うのだろうと思った。
「ほら、もう大丈夫だ! 安心して俺の手に掴まりな!」
差し出した手を完全に無視して、囚われの少女は勢いよく立ち上がった。
背丈は頭一つ小さいぐらい。睨むように見上げるつぶらな瞳からは激しい憎悪を満ち溢れていた。すると、避ける間もなくパチンとナファネスクの頬を思い切り平手打ちする。
「なんてことをしてくれたのよ! あんたさえ邪魔しなかったら、バルドレイア帝国の皇帝のところまですんなりと行けたのに!」
囚われの少女が何を口走っているのか、咄嗟には理解できなかった。しかも、せっかく救い出してやったのに、それに対するお返しが頬がヒリヒリと赤らむほどの強烈な平手打ちという割に合わない行為に激怒した。一目惚れした自分に反吐が出た。




