連れ去られる少女
「ん? まさか、あそこにいるのは!?」
ナファネスクは視線の先に見つけたものに驚愕した。皮肉にも、冥邪どもの群れがいたのだ。
先頭を歩くのは分厚い胸板の屈強な肉体をした冥邪だ。二本の太い足で地響きを立てながら悠然と闊歩する。左右に四本ずつ計八本の腕を持ち、小綺麗な腰布を巻きつけていた。
その並々ならぬ巨体はナファネスクのいた農村に襲来した冥邪――ヴォルガンを優に超えるほどだ。ただ、長い髪を生やした怪物の顔には目が一つもなかった。
その後ろからは、大人の人間よりも少し上背の低い冥邪を四体引き連れていた。
鋭い牙を生やした大きな頭部を持ち、二本の短い腕をぶら下げ、しなやかな二本の足だけで歩いている。動き方からして、とても俊敏そうだ。
二列に並んで歩くその冥邪どもに両側を挟まれる形で、中央を冥邪憑きと化した二頭の馬が鉄格子の檻を乗せた荷車を引っ張っていた。その檻の中には、ナファネスクと同い年ぐらいの少女が閉じ込められていた。
「早くあの少女を助けやらねぇと! 急いで駆けろ、ホーテンショー!」
主の命令に従うように一角獣は嘶き、猛烈な速度で疾駆する。
この少女との運命の悪戯とでも言うべき出会いが、ナファネスクのこれからに大きな影響を与えることになる。
「おい! そこの冥邪ども、止まりやがれ!」
冥邪の群れに近寄ると、ナファネスクは荒々しく声を張り上げた。当然のことだが、人間の言葉など分かるはずもないことは承知の上だ。
こちらの気配を感じ取ったのか、不意に先頭を歩く巨体の冥邪が振り向いた。そのあまりに異様な姿をした冥邪に危険な臭いを嗅ぎつけたナファネスクは、少し距離が離れた場所で愛馬ホーテンショーから飛び降りる。
「ゼラム、聞こえるか? 今すぐ獣霊降臨だ!」
親近感を深めるために壊神竜の名前を略して呼んだ。
【よかろう。だが、気を付けよ!】
壊神竜は意味深な言葉を伝えてきた。それから、ナファネスクの体に金色の巨竜の姿をした獣霊が舞い降りた。瞬く間に巨竜と同じ色の全身鎧を纏い、背中から三対六枚の翼を生やした幻獣騎兵ゼラムファザードになる。頭には苛烈な竜王の顔を象った兜を被っている。
「その姿からして、汝は獣霊使いか?」
いきなり口を開いたのは冥邪のほうだった。滑らかな口調で人間の言葉を話した。




