旅路の始まり
「もう旅立つのか?」
ユリゴーネルが見送りとばかりに来ていた。
「はい」
ユリゴーネルの問いかけに清々しく答えた。
「ならば、その笛を吹いてみるのじゃ」
「これを、ですか?」
促されるままに右手に持っていた風変わりな笛を吹いてみた。だが、何の音も響かなかった。
「あれ? おかしいな」
今度は思い切り吹いてみたが、やはり何も音は出なかった。
「一度でよい」
ユリゴーネルはこの笛のことを何か知っているような口ぶりだった。
少しすると、遠くから馬が疾駆する蹄の足音が聞こえてきた。どうやらこの農村に向かってくるらしく、足音は徐々に大きくなる。
「あれはまさか――!?」
ナファネスクは、足音を響かせる正体に目を瞠った。
正確には馬ではなかった。雄々しい一本の長い角を生やした一角獣という稀有な生物だ。
一角獣は目の前で嘶きながら立ち止まった。背の高さは一角獣のほうが大きかった。
「エゼルベルクはそやつをホーテンショーと名付けていたのう」
「ホーテンショーか。良い名前だ! ホーテンショー、これからよろしく頼むな!」
ナファネスクの言葉に応えるように、気高い一角獣は優しく顔を舐めてきた。「よしよし」と鐙を付けるときも、とても大人しかった。新たな主として認めているようだ。
「そやつに乗っていけば、夕暮れまでには近くの街にたどり着くはずじゃ」
飲み水は持ったものの、食べ物や寝袋はなかったので村長の言葉に安堵した。
「それじゃあ、ユリゴーネルさん、お体を大切に!」
ホーテンショーの背に跨がると、ナファネスクは別れの挨拶をした。ハクニャもすぐ後ろに乗っている。
「くれぐれも体には気を付けるのじゃぞ!」
「はい! じゃあ、行ってきます!」
ナファネスクは手綱を思いっきり引っ張った。すると、即座にホーテンショーは踵を返して疾駆する。
冥邪天帝ヴェラルドゥンガの顕現を阻止する壮大な旅は、今幕を開けようとしていた。




