一国の王子の姿に
我が家に戻ると、ハクニャが家に入るのを確認してから玄関のドアを閉めた。
地下室について、幼い頃にその扉らしきものを見つけた記憶があるのを思い出した。それは居間に置かれた円形のテーブルの真下にあったはずだ。
居間にはまだ朝ご飯の食器が残っていた。ユリゴーネルが気を失ったときに散らばったものもある。まずはそれらを片付けることにした。それから、円形のテーブルを持ち上げて、横に移動させる。そこには、大人一人が入れるくらいの横長の四角形の扉があった。だが、鉄製の鍵穴があり、しっかりと施錠されていた。
「鍵が必要なのか。いったいどこにあるんだ?」
この家にあまり村人たちを招待した覚えがない。要は隠そうと思えば、家のどこにでも隠し場所は考えられた。
ただ、地下室に何か大事なものが隠されているなら、エゼルベルクの部屋の可能性が極めて高かった。その上で、子供の自分では手の届かない高い場所だと推測した。
ナファネスクはドアを開けっ放しにしたままの父親の部屋に入った。棚らしきものは何冊か本が並べてある書棚しかない。ただ、何かに乗らないと、一番上までは見えなかった。
急いで居間から椅子を持って来て、本棚の一番上を覗いてみる。ところが、推測はまんまと外れた。何も置いてなかった。
「違ったか――」
唇を嚙みながら、椅子から下りた。後はベッドしかない。
寝そべってベッドの下を調べてみたが、何も見つからなかった。もし、エゼルベルクが肌身離さず身に着けていたらという不安が首をもたげる。
「いや、そんなはずはない!」
こうなったら、しらみ潰しに探すしかなかった。掛け布団は裏返し、枕を掴み取る。
「あった!」
鍵は枕の下に置かれていた。それを手に取ると、急いで居間に引き返した。
「さぁ、開けるぞ!」
ハクニャも興味ありげに近寄ってきた。
「お前も驚くなよ」
ドキドキしながら鍵を差し込んで回す。カチャッという小気味いい音が鳴り、施錠が開いた。
両手で扉を持ち上げると、地下室に行くための梯子が立てかけられていた。ただ、それほど長くはない。日の光のおかげで、火を必要とはしなかった。
立て掛けてあった梯子を使って地下室に入る。まず目に入ったのは。大きな長方形の立派な木箱の隣にあった黄金と宝石で絢爛豪華に光り輝く鞘に入った一本の長剣だった。
「すげぇな、こりゃ!」
すぐさま手に取り、鞘から抜いてみた。研ぐ済まされた剣は光を反射し、まるで鏡のようにナファネスクの目鼻立ちの整った美しい顔立ちをくっきりと映し出していた。
敢えて切れ味を試すまでもなく、名剣か宝剣と呼ぶに相応しい代物だと断言できた。もっと言えば、アルメスト王国に代々伝えられしものだと感じた。
名も知らぬ王国伝来の宝剣を丁寧に鞘に戻すと、今度は重そうな長方形の木箱の蓋を開けた。
「これは!?」
ナファネスクは一瞬息を呑んだ。中には優雅で華美な刺繍をあしらった高貴な衣服が丁寧に折り畳まれて仕舞われていた。
手に取ってみると、とても滑らかなで上品な触り心地だ。今自分が身に着けているものとは全然違う。それに相応しい金属製の長靴も、宝剣の近くにあった箱に入っていた。
「よし、着てみるか!」
どんな豪奢な衣装であっても、着れなければ無用の長物でしかない。だが、不思議なことに寸法はほぼ自分の体格に合っていた。衣装を身に着けて宝剣を手に取った瞬間、農民の子から一国の王子に一変する。
「どうだ? ハクニャ。見違えただろ?」
ナファネスクは自然と胸が高鳴るのを実感していた。
「ん、これはなんだ?」
衣装のあった木箱にはまだ何かが入っていた。
紐で縛られた布製の巾着袋に一風変わった小さな笛。それから、馬に取り付ける鐙が入っていた。
巾着袋は手に持つとジャラジャラという音がした。縛っていた紐を緩めると、旅をするのに必要なお金が山ほど入っていた。
(鐙の使い方は分かるけど、この笛は何に使うんだ? まぁ、父さんなりに何かしらの考えがあって用意してくれたものだ。取りあえず、一緒に持っていくとするか)
それらを抱えながら、ナファネスクは梯子を上って居間に戻った。
「さて、これでこの家ともお別れだな」
少しだけ感傷に浸ってから我が家を出た。




