不気味な洞窟
一口飲んで喉の渇きを潤した途端、今までずっと少年の頭に乗っていた焔豹が颯爽と地面に飛び降り、「ミャー」と可愛げな鳴き声を上げた。
「ハクニャ、お前も喉が渇いたの?」
先ほど抱いた苛立ちなど既に消え去っていた。ナファネスクは焔豹の口元に水筒を近づけてやる。すると、嬉しそうに水筒の飲み口をペロペロと舐め始めた。
おおよそ四半時が経過し、二人と一匹は再び霊峰マハバリ山を登り始めた。
徐々に山の傾斜が急になってきた。それでも、ナファネスクは二度と先ほどのような弱音を吐かずに頑張ることにした。父親を失望させたくはなかった。
さらに半時が過ぎた頃、父親の口から歓喜の声が上がった。
「おお、やっと見つけたぞ! やはりここにあったのだな!」
ナファネスクの視線の先には、途轍とてつもなく異様な雰囲気を漂わせる洞窟が大きな口を開けていた。
「ここが父さんの来たかったところなの?」
「ああ、そうだ!」
父親は喜び冷めやらぬようだ。
「ナファネスク、さぁ、中へ入ろう!」
ランタンで照らしながら、父親は微塵も躊躇ちゅうちょせずに洞窟の中に足を踏み入れる。
ナファネスクも恐る恐るその後に続いた。すると、不意に洞窟の両脇の壁に掛けられていた燭台しょくだいの蝋燭ろうそくからボッと炎が上がり、奥に向かって次々と燃え上がっていく。
思わぬ事態に、一番素早く反応したのはハクニャだった。ナファネスクの肩から飛び降りた瞬間、毛を逆立てて唸り声を上げる。
「大丈夫。大丈夫だよ、ハクニャ」
激しく威嚇する焔豹を落ち着かせるために、ナファネスクは身を屈かがめて何度も優しく撫でてやる。当然のことだが、少年自身も今の現象に正直驚きを隠せないでいた。
どれだけ宥なだめてもハクニャの警戒心は解けない。まるで洞窟の奥深くに何かがいると思っているみたいだ。
「今の蝋燭の仕掛けは、ここに何者かが入ったことを知らせる罠かもしれないな」
「えぇ!? 誰がそんなことを? もしかして、村長さんかも?」
一瞬体中が身震いするような感覚に襲われた。ところが、父親はランタンの火を平然と吹き消すと、気にも留めずに奥に進み始めた。
「父さん……」
「ようやくここまでたどり着いたんだ。例え誰かに知られようとも、もはや引き返すわけにはいかない。さぁ、行くぞ」
父親の声音はとても厳しいものになっていた。後には引けない覚悟のようなものを感じた。
ナファネスクは生唾を飲み込むと、やむを得ず父親の後ろを着いていった。
大きな洞窟の内側は何か巨大な生物が抉り取ったような人間の力では到底成し得ない造りになっていた。両脇に立てかけられた幾つもの両端の燭台の蝋燭の炎のおかげで、二人は奥深くまで見通すことができた。
距離はそれほど長くはない。ただ、直進した道の先には半円状のだだっ広い空洞があるのが分かった。
その手前まで来ると、父親は急に足を止めた。ナファネスクは危うく父親にぶつかりそうになった。
少年に並ぶようにハクニャがいた。激しく毛を逆立てながら警戒度は最大にまで達していた。




