本当の素性
「いやぁ、ようやく見つけましたよ! お二方」
それほど遠くない距離から喜びに満ちた声が呼びかけてきた。振り向くと、頭の良さそうな顔立ちの若者が立っていた。
歳は二十代前半。邪悪さに満ちた深紅のローブを纏い、左腕に分厚い魔導書を抱えていた。
「目的は達しました。ヴォルガンたちよ、こちらに戻って来なさい」
瘦躯の魔導師は握り拳にした右手を空高く上げた。ほんの一瞬人差し指に嵌めた指輪が光り輝いた。すると、先ほどまでこの農村をむやみやたらと蹂躙し尽くしていた二体の冥邪は急に大人しくなり、若い魔導師の背後にゆっくりと戻っていく。
(あの指輪で冥邪を意のままに操っていたのか?)
ナファネスクの怒れる闘争心は正体不明の魔導師に向けられた。残虐に殺された村人たちの仕返しをしなければ、気が収まらなかった。
「お初にお目にかかります。無疆の獣気の持ち主と噂されるアルメスト王国元王子に《無敗の闘神》の異名を持つエゼルベルク殿」
何事もなかったように痩躯の魔導師は頭を下げた。周囲の惨劇など全く気にしていない。
「アルメスト王国元王子?」
何のことを言っているのか、理解できなかった。
「少年よ、エゼルベルク殿からまだ何も知らされていませんでしたか? これは余計なことを口走りましたかね。僕はバルドレイア帝国の宮廷魔導師で、カシュナータと申します」
「お前の名などはどうでもいい! それにしても、私も相当舐められたものだな。帝国の宮廷魔導師がたった二体の冥邪だけを引き連れて、乗り込んできたってわけか?」
今度はエゼルベルクが口を開いた。憤慨しているのは言葉尻で分かった。
「まぁ、そんなところです。それにしても、あなた方が姿を消してからもう十二年近くになりますか。血眼になって探し回った僕たちの苦労がついに実を結びましたよ。本当に手間をかけさせてくれましたね」
「お前たちがそれだけ使えない者揃いってことだ! 身の程を知れ! お前などさっさと消し去ってくれる!」
瞬く間に攻撃に転じようとした瞬間、遥か上方から何かが襲いかかってきた。
「――!?」
エゼルベルクは俊敏な動きで真後ろに飛びずさる。先ほどいた場所には円形の武器によって大きな穴が穿たれた。その瞬間、ナファネスクは物凄い獣気が放出されるのを感じ取った。
「この攻撃は!? まさか、そんなはずはない!」
エゼルベルクは今の特殊な武器を見て、何かを全否定するように首を横に振った。
「久しぶりだな、エゼルベルク!」
親しげに父親に話しかけてくる者を見るため、二人は上空を見上げた。




