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埋もれた短編

きみの名は

作者: 平松冨永



 就職を機に始めた独り暮らし。




 月給をどれだけ生活費に充てて、貯蓄できるかを把握するのに一年かかった。しみじみと両親の偉大さを実感した。


 平日と休日の家事配分を定着させるのに、一年半かかった。自動掃除機スゴいし偉い。


 一階にコインランドリーあるマンションで良かった。一週間分のアイロンは面倒だけど、掛け終えたらちょー達成感ある。浮いたクリーニング料金を計算して貯金箱に入れるようにしたら。


 洗剤や柔軟剤や糊付けに興味が湧いて、あれこれ試すようになりました。お陰で清潔感キープできて、ラッキー。


 化粧品は必要最低限。たまにメイク動画は観るけど、職場で尋ねた方が速いし具体的。目元は無添加、あとは安物。試供品をフル活用。




 そして今、私は新たなステージに立つ。自炊という、将来への投資と自己管理上級ゾーンに突入するのだ。


 はいそこ、順番おかしいとか言わない。


 だってごはん作るの大変じゃん!


 コンビニにスーパーの閉店前の値下げ惣菜、お弁当屋に惣菜量り売り店、ファストフードに定食屋、回転寿司に居酒屋中華料理屋。駅からマンションまでの間にこれだけあるんだもん!


 外食と中食で回せるもん!


 野菜もガッツリ摂れるもん!


 というわけで、後回しにしまくってました。女子力とかどうでもいい。ストレスためない方向に全振りしてました!



 けどね。


 おじさんだけどなんか喋りやすい先輩がね、独り暮らしの大先輩がね。希望者だけの軽い飲み会で、白菜とマンホールの話をしててね。変な人よね。


「一玉買って、調べまくって使い切ると『勝った!』って達成感があってさあ」


 なあんて言ってたんですよ。


 生でも刻んで冷凍でも、炒めても煮ても焼いても蒸してもいいんだよ、って笑いながら。




 なんか悔しくなって、帰りの電車でチラシアプリで調べたの。使ってる家計簿アプリと比べたの。


 片手鍋とフライパンと電子レンジ、ミニまな板と万能包丁でできるレシピを調べたの。




 と、いうわけで。


 二十四時間スーパーで買ったのは、だし入り味噌と薄あげと乾燥わかめ。人参玉ねぎ豚こまと、白菜四分の一カット。サラダ油と塩昆布と皿うどんでございます。調味料セットな皿うどんありがとう!


 でもこれ、うどんと言う癖に細すぎる。袋麺の親戚っぽいし、聞いたことない名前だ。


 かた焼きそばとか言う中華メニューとどう違うんだろう。




 重いマイバッグを手のひらに食い込ませながら帰宅して、入浴と着替えを済ませてからいざ開始。


 調理実習を思い出しつつ、スマホのレシピ写真を参考に野菜を切る。包丁の薄切りって高等技術よねえ。猫の手、猫の手と呟きながら集中する。


 菜箸がないから余ってた割り箸で、ああ、お玉が必要だわと独り言。作りながら道具の必要性に気付かされる。




 わかめだらけになったお味噌汁、微妙に美味しくない白菜昆布サラダに首を捻る。お母さん、先輩、美味しいごはんってどういうコツがあるの。お味噌汁の味が違う。だし入りってあったのに、なんだかすごく味噌味噌しい。


 マグカップだからかなあ、味噌汁用のお椀なら違うのかなあ。


 なのに初めて作った皿うどんが、無茶苦茶美味しい。なにこれ、パリパリとふにゃふにゃと油っぽさとさっぱり塩味で、欲しい味が全部ある。白菜と玉ねぎがしゃきしゃきとクタクタで、人参はちょっと固かったりちょうど良かったり、固まってる豚肉は食べ応えがあって嬉しい。わかめが何故かいいアクセント。


 どぅるん、と固まった半透明の餡に笑う。混ぜるのへったくそだなあ私。でも具材と絡めて口にしたら、気にならない。


 食べながら笑っちゃう。きっと失敗作なのに、ぎりぎり食べられるくらいなのに、変に美味しい。平皿に乗り切らなかった餡を途中で足したり、揚げ麺を割って足したり。

 パリパリの麺に、白菜を絡めて口に入れる。さっきより生っぽくない食感に、笑いたくなる。


 なにこれ、と笑いながら飲んだ味噌汁は、さっきより美味しかった。変なサラダを噛み締めたら、さっぱりした。


「菜箸と計量カップ、計量スプーン、お椀とお玉と」


 うちの出汁はなんだったんだろう。ああ、なんで母に習わず家を出たんだろう。




 意外と近所だったおじさん───山本先輩と、自炊話で盛り上がるようになった。


 毎週末、母と長電話をするようになった。


「田中さん、これ新商品」


 山本先輩は、新商品を箱ごと私にちょいちょい渡す。まるで親戚のちびっこ扱いだ。




 私の女子力は相変わらず最低値だけど、どうやら少しは上向いている、気がする。


閲覧下さりありがとうございました。

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