第008話 サポート人格
転送の光りに包まれて閉じた目を、ゆっくり開ける。
「おお…………おぉぅ」
えぇぇ……最初に見る異世界の景色をちょっと楽しみにしてたんだけどなぁ……。
「……フー……初めて異世界の地に降り立った私の目に映ったものはっ! ババンっ! ……右を見ても左を見ても木、木、木っ! 木が三つで森でしたー……チャンチャン」
私は、初異世界への期待が落胆に変わった事を、何とか盛り返そうと頑張った……ム、ムリだ。
「まぁ、森の中にある村に近い場所なら当たり前かぁ」
見回しても珍しいものも無さそうだ……まぁ、珍しい木なら有るのかもねっ! それにしても薄暗いなぁ……。
私の居る場所は、森の中にポッカリ空いた小さな広場になっていて、一応、陽の光が射してるけど、それほど明るくなかった……。
日が暮れる前にアキが居る村に行こう……とっ、その前に。
「えーと、確か、着いてから勇者システムを起動って言ってたよね。……どうやるんだろ?」
私は、とりあえず、勇者システムを導入した世界の入れ物……長いっ!
「命名っ! ビー玉から取ってビーっ!」
ビーを探すと、フヨフヨ浮かんでいたビーがスーっと目の前に寄ってきた……ヨシヨシ、エライエライ。
神様の呼んでいた呼び方に習って、私も呼ぼうとしたが、呼び名が長過ぎることに、思わず命名してしまった……神様が名付けていいと言ってたから問題無し。
「まぁ、ものは試しに……起動!」
私の安直な言葉に反応して、ビーが点滅し始める……そして。
〈起動完了〉
ん? この声は……まさか!
〈ヤッホー、あかりちゃん。初めましてだねー。メトルはサポート人格のメトルだよ、ヨロシクねー。メトルは勇者システムの事詳しいから何でも聞いてねー〉
「ありがとうございますっ!」
ナイスナイスナイスぅぅ! 最初、機械音声が聞こえた時は、神様再降臨っ! って思って緊張しちゃったよ……。
でも、まさか、まさか、幼女神様が降臨成されるとはっ! ばんざーい、ばんざーい。
私は、思わずお礼を言ってしまう程、メトルという名のサポート人格の、可愛らしい女の子の声に有頂天になった。
〈……あ、あかりちゃん。ど、どうしたのー〉
可愛い声だなぁ……ここは、お姉ちゃんの威厳をみせる時だっ! ムフフ。
私は得意のムーブを開始する。
「な、何でもないよ。それよりメトルだったよね。これからよろちくねー。メ……ト……ル……ちゃんっ!」
〈……う、うん。それとあかりちゃん。メトルと話す時は頭の中で会話出来るからねー〉
効いてる、効いてる。
「まぁ、メトルちゃんは物知りでちゅねー。お姉ちゃんに教えてくれてありがちょうねー。試ちてみまーちゅ!」
〈う、うん〉
どんどんいくぞー。
〈……あー……あー、メトルちゃん聞こえまちゅかー? お姉ちゃんでちゅよーメトルちゅぁぁーんっ!〉
〈あ、あかりちゃん。聞こえるよー〉
トドメだっ!
〈あいあい! これからはこれではなちょーねー。メートールーちゃんっ! ……グヘヘヘ……ジュルリ。おっと、よだれが……フキフキ〉
〈……わ、わかったー〉
どうだぁぁっ! これこそが、私が長年、アキとのマウント合戦で培ったお姉ちゃんキャラだー! もう、メトルちゃんもメロメロに違いない! オホホホホホホ。
私は、自身の会心の出来に高笑いしてしまう。
〈……あ、あかりちゃん。い、言いづらいんだけどー……〉
おぉ! 早速来たー! メトルちゃんからの告白だぁぁぁっ! ドキドキ、ドキドキ。
私は逸る心を抑えながら、メトルの次の言葉を待った。
〈ち、ちがうよー。そうじゃなくてね、あかりちゃんのそのキャラは……間違ってるのぉぉー〉
え? えっ? な、なにが……。
〈……やだなぁー。メトルちゃんにも筒抜けだったのかー。先に言っといてよー。…………それで、何が間違ってるの?〉
私は、聞きたくない思いから、矛先を変えようとしたが、やはり気になって聞いてしまう。
〈あかりちゃんのお姉ちゃんキャラだよー。メトル知ってるよー。そのキャラはね、一部の人にしか刺さらないのー〉
……ガーン……え? わ、私の……私の自信作が……間違い……うわーん、えーん。
私は、ずっと間違ったお姉ちゃんでアキと会ってたのかぁぁぁ! 恥ずかしいぃぃぃ……。
ハッ! ママの苦笑いの理由もこれだったのかあぁぁ……謎が一つ解けたぜ! ヤッタね……嬉しくなーい……。
メトルの指摘によって、私が自信満々で行ってきた全てが、黒歴史になるだろうと理解し、羞恥した……。
〈元気出して、あかりちゃん。これから立派なお姉ちゃんになってねー〉
優しいメトルが私を慰めてくれる……だけど……。
〈メトルー、トドメを刺しに来ないでー。……でも、メトルありがとうね。私頑張るよ〉
メトルの純粋無垢な言葉を、私は素直に受け取ることにした。
……アキ、立派なお姉ちゃんが、今から会いに行くよ!